その日、春日俊彰は「さんま御殿」のゲスト席に座っていた。目の前には、司会の明石家さんまがニヤニヤと笑みを浮かべ、観客席からは期待のざわめきが響く。
テーマは「日常でやってしまう小さな失敗」
春日は、相方・若林正恭の隣で、いつものピンクベストを着込み、胸を張っていた。だが、心の奥では、なぜか妙な予感がしていた。
「さぁ、春日くん! 何か面白い失敗談ないの?」さんまの声が弾けるように響く。春日は一瞬、頭をフル回転させる。
「いや、まぁ、その、なんちゃらホイ!」
春日は思わず口を滑らせた。瞬間、スタジオが静まり返る。さんまの目がキラリと光り、若林が隣で顔を覆う。観客席からはクスクスと笑い声が漏れるが、春日は気づいてしまった。しまった、これは「春日語」のスイッチが入ってしまった瞬間だ。
「なんちゃらホイって何やねん!」
さんまがすかさず突っ込む。
「春日くん、普段そんな喋り方してんの? ほんまに?」
スタジオは一気に爆笑に包まれるが、春日の背中には冷や汗が流れる。どうにか軌道修正しようと、春日は咳払いをして話し始める。
「いや、さんまさん、普段はそんなことないんですよ。ほら、普段はこう、あぱーー! じゃなくて、普通に…」またしても春日語が飛び出し、スタジオは大爆笑。春日は焦る。なぜだ、なぜこんな時に限って「あぱーー」が止まらないんだ!
若林が助け舟を出す。
「いや、春日は緊張すると、つい自分の世界に入っちゃうんですよ。普段はもっと普通に喋りますから」とフォローするが、さんまは容赦ない。
「ほな、春日くん! 今から普通に喋ってみぃ! テーマは、最近の失敗談や!」
春日は深呼吸する。よし、落ち着け。ここはオードリーの春日俊彰として、しっかり話すんだ。
「あの、最近、コンビニで…」と話し始めた瞬間、なぜか脳裏に「キン肉マン」のテーマ曲が流れ、口から飛び出したのは「コンビニで、ムキムキマッスルで買い物して、あぱーー!」だった。
スタジオはもはや笑いの渦。さんまは腹を抱えて笑い、若林は呆れたように天を仰ぐ。春日は顔を真っ赤にしながら、内心で叫んでいた。なんでだ! なんで俺はこんな時に春日語しか出てこねぇんだ!
収録後、楽屋に戻った春日は若林に謝った。「いや、若林、なんかスイッチ入っちゃって…」
若林は笑いながら肩を叩く。
「まぁ、あの気まずさが春日らしいっちゃらしいよ。さんまさんも喜んでたし、結果オーライだろ」
その夜、春日は自宅でハイボールを飲みながら、今日のことを振り返った。気まずかったけど、笑いにはなった。もしかすると、春日語は自分を救う「秘密兵器」なのかもしれない。テレビの画面には、さんまの声がリピート再生されていた。
「春日くん、最高や! また呼ぶで!」
春日は小さく笑い、こう呟いた。「あぱー!よし、明日も頑張るか!」