夜の公園、クロちゃんはベンチに座り叫んだ
「会議スタートだしん!みんなたくさん来てくれてありがとう。朝まで討論するよ。」
しかし、彼の回りには誰もいない。ただ一人延々と話続ける姿は恐怖というより滑稽だ。
街灯の薄暗い光がベンチを照らし、彼の影が長く地面に伸びている。風が木々の葉を揺らし、かすかなざわめきが辺りに漂うが、それ以外に返事はない。誰もいない。ただ静寂が彼の叫びを飲み込んでいくだけだ。
「まずは議題を決めようか。えっとね、最初は…そうだ、世界平和について話したいんだしん!」
クロちゃんは目を輝かせ、まるで大勢の観衆が彼の言葉に耳を傾けているかのように身振り手振りを交えて話し始めた。時折、笑い声を上げたり、誰かに相槌を求めるように首を振ったりするが、その視線の先にはただの闇があるだけだ。
彼の手には小さなノートが握られていた。そこには殴り書きで「会議メモ」と書かれ、ぎっしりと細かい文字が詰まっている。ページをめくるたびに、彼の声はさらに熱を帯びた。
「次はね、宇宙開発についてだよ。俺、火星に住みたいって思うんだしん。みんなはどう思う?賛成?反対?」
彼は一瞬立ち上がり、虚空に向かって手を振った。誰かが拍手でもしているかのように、満足げに頷いて再び座る。
夜が深まるにつれ、公園には霧が立ち込め始めた。クロちゃんの姿はぼんやりと霞み、彼の声だけが不思議なリズムで響き続ける。
「反対意見も聞きたいよね。うん、公平に進めないと。じゃあ、反対の人は手を挙げて!」
彼は目を細めてあたりを見回すが、もちろん誰も手を挙げる者はいない。それでも彼はニヤリと笑い、「おお、満場一致だね!素晴らしい会議だよ!」と独り言ちた。
やがて、空が薄明るくなり始めた。朝焼けが霧を溶かし、公園に新たな光をもたらす。クロちゃんは疲れ果てた様子でベンチに凭れかかり、ノートを胸に抱えた。
「いやぁ、濃い討論だったね…みんなのおかげで最高の夜だったよ。次はまた来週だね!」
彼は立ち上がり、よろよろと歩き出す。その背中はどこか寂しげで、しかし同時に奇妙な満足感に満ちていた。
公園には再び静寂が戻った。ベンチの上に残されたのは、彼が握り潰した空のコーヒー缶だけだった。そして遠くで、カラスが一声鳴き、朝の訪れを告げた。