スウェーデンに帰る久美子をお見送りするためにひとみは空港にやってきた。
「次はいつ日本に来るの?」
「さあ、いつになるかな。」
別れと言うのに久美子はさっぱりしてて、ひとみの方が名残惜しそうな表情をしている。久美子の夫と息子は土産物店にいるので彼女と二人っきりになるのは久しぶりかもしれない。
「日本には住む予定はないの?」
「リヒトが大人になるまではないね。」
久美子は夫と息子の方を見つめる。その眼差しは今まで見たことがないほど優しい雰囲気を出している。
「未だに有害なサスペンスドラマを地上波で放送しているような国で子育てなんかできないよ。」
かつてサスペンスドラマが原因で未成年者が凶悪犯罪を起こした事件があった。なかまたちにとってもそれは忘れてはいけない重要な事柄として心に刻んでいる。
しかし、その事件があったときひとみはなかまたちとは距離を置いていたのでいまいちピンときていない部分がある。
「私はリヒトを犯罪者にしたくないからね。」
ひとみも子供ができたらわかるよ。そう言いたげな表情で笑う。
空港を出ると卓が待っていた。
「なんか元気ないな。やっぱ親友との別れは辛いのか。」
「そうだよ。今度いつ会えるかわからないもん」
「今生の別れじゃないんだから、問題ないだろ。SNSとかネットでいつでも連絡できるんだから」
「そういうことじゃないの!」
いそいそと助手席に座り込む。卓も慌てたように運転席に座り、車を発進させた。
車窓を見ながらひとみは物思いにふける。空には鳥が飛んでいる。
「久美子さんはスウェーデンに住んでるんだよな。」
急に卓が話しかけてきた。
「そうだよ。」
安永宏と離婚して、すぐスウェーデンに旅立った彼女はそこで知り合ったノルウェー人男性と意気投合しすぐ結婚してしまった。その話を聞いたときひとみはショックを受けたし、ひどい憤りを感じた。あんなに好きだったはずの宏をさっさと捨てて別の人と結婚なんてと思ったけど、今回久美子の夫を見てその考えは脆く崩れ去った。
「北欧っていいよな。また行こうか?今度は久美子さんちに泊まってさ。」
ひとみが卓と北欧に行ったのは、ちょうどなかまたちとの縁を切っていたときだ。あの時唯一連絡をとっていた純子からドイツ行きを誘われていたがきっぱり断っていた。
ドイツは子供の頃から憧れていた国だったけど、それ以上に北欧の魅力にハマってしまった。
「もしかして北欧に住みたいと思ってる?」
「そこまでは思ってないよ。俺、世界中を旅してて思ったんだ。やっぱ住むなら日本だなって、今の生活も楽しいからな。」
「あたしも今の生活に満足してるかも。」
子供っぽいけど頼りがいのある夫と一緒になって生きる希望に溢れた日常を過ごしているだけでひとみはとても幸せだ。