わかっていた
菊地英治が自分のことをとっくに好きじゃなくなった事なんて
目の前で菊地と冴子の抱擁を目の当たりにしてひとみは逃げるようにその場から離れ、病院の外で泣いた。一生分の涙を出しつくす勢いで、これから先泣く事なんてないように・・・・・
それ以来、久美子が彼氏を紹介してくるが、今はそんな気分にはなれない。このときほどともだちがうっとうしいと思ったことはない。
今は誰とも付き合いたくない。それが本音だ。
こんなとき犬がいてくれたら少しはマシになるのかなと思うけど、パトラッシュがなくなって以来、何も飼ってはいない。
そういえば今のこの感じはあのときに似てる。
失恋とペットロス
大切な相手が自分の前からいなくなる感覚
私が菊地くんに好意を抱いていたのはパトラッシュを失った悲しみを埋めるためだったのかもしれない。
じゃあ、菊地くんに振られた悲しみはどうすればいいの
ひとみがやってきたのは動物保護センター、時々訪れる場だが最近、気になる子がいるのだ。
一人暮らしのおじいさんと暮らしてたけど1週間前にそのおじいさんがなくなって引き取り手がなくてこの施設にやってきたハチという名の犬
ここにいるこのほとんどは人間を警戒しているような子が多いのに、ハチは人懐っこい
接しているだけでこの子はそのおじいさんにかわいがられてんだろうなとわかる。
「あなた、すっかりその子が気に入ったみたいね」
顔なじみのセンターのスタッフが声をかけてきた。
「よかったらその子引き取る?」
「それは・・・・・・」
いざ飼うとなるとどうしても二の足を踏んでしまう。生き物を飼うのは責任を背負う事、生半可な気持ちで飼ったら失礼だろって菊地がよく言っていた言葉。
「少し考えさせてください。」
失恋のキズを癒すためにこの子を飼うのはどうかしてる、ハチはひとみの事情なんて知らないから。
それから三日後、再び動物愛護センターにやってきたひとみだったが、ハチの姿が見当たらない。
スタッフに聞いたところ昨日、里親が見つかって引き取ってもらったそうだ。
それを聞いてひとみはなぜか安心した。
あの子も新しい人生が始まった・・・だから、私も前向きに生きないと。