物心ついたときから音楽が好きだった。歌う事が好きだった。
親に進められ始めたピアノも、中学の頃から始めたギターも好きだった。
大好きなアーティストの曲がうまく演奏できたときなんて、うれしくって大声をあげて近所の人に怒られた事もあった。
当然、夢は歌手になること。
両親もその夢を聞いて誇らしげだった。
でも、中学に入ってから親はすっかり変わってしまった。
いつまでも夢みたいな事言ってないできっちり勉強して安定した人生を送るために公務員になれと言う、つまんない大人になってしまった。
安定した人生ってなんだ?
おれはおれの生きたいように生きたいんだ。なぜ、親は子どものやる事なすことに反対するんだ。ピアノを勧めてくれたのはそっちなのにどうして今になってやめなくちゃいけないんだ。
だから、中1の夏クラスメイトと一緒に廃工場に立てこもったのだ。
他のみんなは一味違った事をしたかったみたいだけど、おれだけは明確に大人に反抗という意思があった。
それ以降も、日ごろの鬱憤を歌詞にして歌を作っては、自己満足に浸っていた。おれにとっては音楽だけがすべて、学校の勉強なんかクソくらえだ!
高校なんて行く気はなかったが、母親が「どうしても高校だけは出て」と泣いて頼んだからしぶしぶ通ったが、学校なんてほとんど行かなかった。
そして、とうとう事件が起こった。
父親がおれの命よりも大事なCDを売り飛ばし、その金で参考書を買ってきたのだ。
この所業におれはキレて父親を殴った。こんな事は生まれて初めてだ。
そして、簡単な荷物とギターを抱えおれは家を出た。
ともだちの家を転々としながらおれはストリートミュージシャンをする毎日だ。時折、立ち止まって聞くような人もいるがみな急ぎ足で歩いている。
毎日のように仕事に追われ疲れたような表情、彼らが親の言う安定した人生を送る人間なら、おれはそんなのお断りだ。たとえ苦しくても自分の生きたいように生きる。後悔はしたくないから・・・・・
時間も11時をまわりそろそろ帰ろうとするとベンチに一人の男が座っている。でも音楽を聞いてたわけじゃなさそうだ。その男は魂の抜けたような表情をしていたから。
ただ、おれはその男に見覚えがあるような気がした。
「お前、菊地英治か?」
突然、声をかけられはっとする男。
「どなたさん?」
「おれだよ。吉村賢一。一緒に工場立てこもっただろ。」
「吉村・・・・・・・ああ、声がムダに高い・・・・・」
心なしか声に正気が感じられない。菊地といったらいつもバカな事やってはみんなからひんしゅくを買ってはいたけど、陽気なイメージだったけど久しく会わないうちに彼も人が変わったのだろうか。
「なんか元気なさそうだけど、どうした大学受験でも失敗したのか?」
「そんなくだらないことで落ち込む奴なんていないだろ・・・・」
そこで、深くため息をつく
「恋人が死んだ・・・・もう生きていく意味が見つからない・・・・・・」
この発言におれは衝撃を受けた。一番自殺しなさそうな菊地がここまで追い込まれてるなんて、よっぽどその恋人のことが好きだったんだろう。
おれはなんて言って慰めたらいいのかわからない、でもおれには音楽がある。
おれは片付けたばかりのギターを取り出した。
夏のある日 おれは草の中で生まれた
ひどい暑さだ
どうしておれは生きなくてはならないのだ?
だれも教えてくれない
やがて夏が終わるとき
おれのひと時の命も終わる
おれが生まれたことも死ぬことも
知っているのは夏草だけ
やがて夏草も枯れて
あとは何も残らない
歌い終わって菊地を見ると表情は暗いままだ。
「おれ、今はこんな道端で歌っているけど、いつか武道館でコンサートを開きたい。だからそれまで生きて
おれのコンサートに来て欲しい。」
おれは精一杯の笑顔をして見せた