ひとみの家で純子と一緒にチョコレート菓子を作る事になった。そういえばバレンタインにチョコを作ってプレゼント~なんて初めてかもしれない。純子は毎年、男子に配ってたが、ひとみがやった事ないといったとき純子は意外そうな顔をして驚いた。
「英ちゃんにあげた事ないの?」
「うん、なんか英治くんって甘いもの好きそうじゃなさそうだし・・・・。」
「そんなことないと思うけどな。私がチョコをあげたら嬉しそうにしてたし・・・・そうか、英ちゃんはきっと待ってるんだよ、ひとみのチョコを!しかも手作りってなったらまた英ちゃん、ひとみのとこに戻ってくるって!」
「そうだね。」
初めてながらチョコはそれなりにうまくできたと思う。
プレゼントだからラッピングもおしゃれにする。純子はこういうことに関してなれているらしく、ラッピング専門の学校があったら入りたいとつぶやくほどだ。
これを菊地に渡したら、どういう反応を見せるか?
ひとみは緊張してきた。
「よし、早速英ちゃんに渡すのよ!今日の5時に駅前で待ち合わせしてあるから・・・・」
思いのほか純子の方が張り切っているような感じだ。
駅前には4時30分に着いた。さすがにこんな時間には来てないだろうと思ったが、菊地のほうから声をかけてきた。
「なに?」
高校生になってからの菊地のひとみに対する態度はそっけない。それを見るたびに純子は悲しくなる。あんなに好きだったのにどうしてそんな冷たい態度をとるの?
「あ、あの菊地君・・・今日ってバレンタインだから・・・・・」
ひとみがかばんからおしゃれにラッピングされたチョコを取り出す。
「わ、私菊地英治くんのこと好きなんです!」
二人の間に続く沈黙、それを離れた位置から見守る純子。
とても長く感じられる時間、それを破ったのは菊地の一言
「ごめん、おれ冴子のことが好きだから、それにひとみのことはもう好きじゃないんだ!」
うすうす気づいてはいた、菊地がひとみのことを好きじゃないという雰囲気を・・・でも、はっきり好きじゃないって言われるとショックは大きい。
ひとみが何か言おうとすると、突然菊地が駆け出した。
「き・・・英治くん・・・・い、行かないで!!」
ひとみの声が届かないのか彼の姿はどんどん遠ざかっている。もう彼の心にひとみはいないし、ひとみの声も届かない、ひとみはその場に座り込んだ。
「ひとみ!?」
純子がそばに近づいたとき、ひとみは涙を流している。
「わたしってほんとバカ!はなっから叶わない恋だったのに・・・・いや、こんなの恋でもなんでもなかったの!わたしと菊地くんの仲なんて・・・・・・」
ひとみは泣いた。一生分の涙を出しつくす勢いで泣いた。ここまで泣いたらこれから先泣く事なんてないように・・・・・。
菊地が突然、走り出したのは、冴子の姿を目にしたからだ。
ひとみが何かを渡そうとしているのを見て、思わずその場を離れようとしたから、だから菊地は冴子を追いかけたのだ。
正直、ひとみのことなんてまったく気にしてもいなかった。このまま冴子がいなくなってしまう。そのことのほうが菊地にとって重要だったから。
ようやく冴子の腕をつかんで愛おしい人を自分のほうに抱き寄せる。
「見てたのか?」
冴子がうなずく。
「だったら最後まで見ていけよ。」
冴子の大きく澄んだ瞳が菊地を見つめる。菊地が大好きな眼差し、いつもだったらまぶしくなって思わず目をそらしたくなるけど、今日はぐっとこらえる。
「ひとみからの告白、断ったんだ。おれが唯一愛しているのは冴子、君だけだから。」
そういって冴子の唇にキスをする。
大好きな人のぬくもりが伝わってくる。
菊地は今、とても幸せだった。