夜の学校は昼間とはうってかわって不気味な雰囲気に包まれる。お化けや幽霊といったものが出るわけではないが、暗く誰もいないというのは耐え難い恐怖である。
そんな中をたった1人で歩き回るのはかなり勇気のいることである。
ひばり第2中学校でも男性教師が学校に泊まりがけで校内の見回りをすることになっていた。
8月の第1土曜日の当直は天野豊という2年8組の担任をしている若い(27歳)理科教師だ。彼は当直室のテレビよりにもよって怪談物のドラマを見ていた。他に見たいものがなかったためしょうがないのだ。
「いくら暇だからって、怖いのみたなぁ~。」
コンコン
当直室の戸を誰かがノックしている。天野は緊張してゆっくりと戸を開ける。するとしわしわの顔が見えた。
「うわ~~~!」
「どうしました?出前のカツ丼持って来ました。」
先程、出前を取った食堂の親父だ。天野は何事もなかったかのように代金を払う。
「何びびってんだよ。」
一気にカツ丼をかきこむ。半分以上食べると天野は自分の携帯電話を取り出しある番号にかけた。相手は教え子である拓也の家だ。
「は~い大森だよ~ん。」
「あっ、大森か。先生今日当直なんだけど。暇だから遊びに来ないか?」
「あ~先生怖いんだ。」
「そうじゃない、暇で暇で。無理にとはいわないから。」
「知ってる?噂で聞いたんだけど夜になるとうちの学校兵隊さんが軍歌歌いながら行進しているんだって。んじゃ、さいなら。」
拓也は何かを企んだ様子で天野との電話を切り、勇樹の家に電話した。
「はい森ですけど。」
「天ちゃん、今日当直なんだって、だから脅かしてやろうぜ。」
天野は天ちゃんという愛称で生徒達に親しまれている。
「肝だめしドッキリね。よし早速お前んちに集合やな。」
そして、拓也の家に勇樹と夏夫、和樹、勝、トニー、直樹、守、文夫のいつものメンバーが集まった。9人がそれぞれ打ち合わせをしていざ出発すると、浴衣姿の麗美、いずみに8組の副担任川口理央とばったり出会った。
「何よ、あなた達そんな荷物持って家出でもする気?」
「違うって当直の天ちゃん脅かしに行くの。そういうお前らは浴衣なんか来てどこいくんだ?デートかい。」
「花火見に行こうとして、途中で川口先生と会って一緒に行くことになったんだけど。そっちが面白そうだからそっちに行こうかな。」
「たくさんいれば面白いことができそうだな。」
生徒達は一斉に学校のほうへ向かう。
「ちょっとほどほどにしときなさいよ。」
川口が教師らしいことを言うとあとで
「私も何かやろうっと。」
と、子どもっぽい表情をした。
時計の針が8時を指した。もうそろそろ見回りに行かなくてはいけない。重い腰を上げ懐中電灯を持って当直室から出た。見回りに行く前にトイレに入る。
すべて、出し終えてホッとしたのもつかの間個室のほうで物音がした。
天野は背筋がぞくっとしたがどうしても目線がそちらに行ってしまう。開け放たれたドアから和式の便器に骸骨が座っている形でいるのが見えた。
「うわ~~~!」
理科準備室で骨格標本によくお目にかかっているのに悲鳴をあげてしまった。急いでトイレから退散する。すると今度はトントンと何者かが肩を叩いてきた。後ろを振り返るとだれもいない。
「気のせいだな。」
再び肩を叩かれた。自然に振り返ってしまう。
「神経質になりすぎだぞ。」
前に向き直ると目の前にゾンビの姿があった。
「ぎゃ~~~~!!」
100メートルを9秒台で走るくらいの勢いでその場から逃げ出した。
「あ~、なんだよあれ、今日はちょっと疲れているみたいだ。さっさと終わらして寝ちゃお。」
つい早足になり、懐中電灯が照らす光の輪を見つめながら、階段を上がり2階の1年9組の教室の前に出る。廊下の突き当りには職員室があるが真っ暗で見えない。トイレに懐中電灯を向ける。何もない
少し安心した面持ちで窓の外の中庭を見下ろす。
中庭の真ん中で何かが光った。火の玉?いや誰かが花火をしているんだろう、そうに決まっている。天野はそう決め付けた。
渡り廊下のところまで来るとコツコツと足音が聞こえてきた。天野は拓也から聞いた兵隊のことを思い出した。
「もう見回り終了。さっさと寝よ。」
天野が1階に降りようとするとすすり泣く女性の声が聞こえた。その様子はまるでこの世のものとは思えないくらい物悲しい感じだ。
天野は早足で階段を駆け降り、当直室に入った。
汗でシャツが湿って気持ち悪い。
部屋には布団が引いてあるが、天野は何の疑いもなく掛け布団をめくって寝ようとした。しかし、その中から現れたのは先ほどのゾンビが横たわっていた。
「ひぇ~~!」
びっくりして部屋から飛び出すと今度は目の前に猫の顔が見えた。
「うわ~~~~~!!化け猫だ~~~!!!」
「失礼ね化け猫なんて。」
化け猫が顔を取ると人間のしかも見覚えのある女性になった。
「あ、あれ?川口先生。なんでこんなところにいるんですか?」
「生徒達と先生驚かしにきたの。」
「生徒…?!じゃあ今までのことは…!」
「俺達の仕業。」
天野後ろから拓也、守、勝が返事をした。拓也の手にはゾンビの仮面がある。
「お前ら~~。」
「天ちゃんの様子カメラに取りたかったな。」
「もうちょっと粘ってくれると思ったのにこれじゃあ物足りないぜ。」
3人が口々に話していると他の連中もやって来た。
「ねぇ、せっかくだから花火やろうよ。」
麗美が花火のバラエティセットを見せていった。
花火が一斉につくと昼間みたいに明るくなった。そんな中で浴衣の女性を見るとたまらない。夏夫は顔がつい赤くなる。
「お~い。5連発のいくぞ~!」
拓也が叫ぶ。そばで勝が火をつけている。ところが花火を浅く埋めたのか倒れてしまった。しかも打ち出された花火は天野に向かって飛んでいく。
「あちちち。」
見ている人にとっては爆笑ものだが、本人は笑いどころではない。やっと収まると拓也と勝をにらみ、追いかける。
「お前らいい加減にしろ!」
「俺達のせいじゃねぇよ。」