勝鬨中学での経験は菊地英治にとってもう一度教師を目指すいいきっかけとなった。
恋人の死であきらめてしまった大学進学への道・・・・いつまでもくよくよしてたら冴子にどやされる。


そうして菊地は沖縄にある大学へ入ったのだった。

沖縄はぼくらにとっても縁ある場所だ。
初めて訪れたのは中二の夏、自然を破壊してまでリゾート開発をする業者と戦うために遠征したのだ。あれ以来、沖縄の自然に興味を持ったのだ。そして、高校の修学旅行先も沖縄だった。あの時、冴子と見た夕日は一生忘れないし、彼女と一緒に体験ダイビングもした。いつかダイビングの免許とって冴子と世界中の海を潜ろうと誓ったことが昨日のように思う。

「あれ?あなた菊地英治くん?」
突然、女性から話しかけられた。
「えっ!?」
「覚えてる?私、金城八重よ。ほら神室島の・・・」
神室島・・・・遠い記憶の糸を手繰り寄せる。たしか、その島の名は・・・
「ああ、八重さん!?あの島でともに戦った!」
「そう、まさか同じ大学に通うなんてね。」
金城八重、ぼくらが遠征した島の住人、ぼくらとともに業者と戦った同士だ。まさか、こんな形で再会するなんて、人の運命とはいかに不思議なものか・・・・
そして、お互いに近況報告をする二人。
ぼくらが戦ったあの島はもう無人島になったという。
「陽平の家族も島を離れたのか・・・・」
「だけどこれでよかったんだよ。島は人の手を離れて自然に帰ったんだ。」
八重の表情は寂しいのとホッとしたのと半々だ。
「島にいた子たちとは時々会ってるからね。せっかくだから会わない?」
「そうだな。」

元神室島の住人と会うのは地元の居酒屋。そういえば居酒屋に入るのは初めてだ。
店に入ると色黒といういかにもな沖縄県民風情の男が手を上げた。
上原徹、今は沖縄にあるテーマパークで働いているとのこと。
「菊地くんは酒のめるんだっけ?」
「あ~年齢的にはOKだけど・・・飲んだ事ないな。そういえば。」
「じゃあ、初酒だ。」
そういって菊地の手前においてあるグラスに酒を注ぐ。
「こ、これ泡盛じゃないっすか!?」
初めて飲む酒の味はのどがきゅ~っと熱くなる。ああ、おれも大人になったんだな。
二杯目を口にすると、二人の男女が席に着いた。
「久しぶりですね、金城陽平です。こちらは玉城あかね。」
「ああ、陽平にあかねか・・・・ん?苗字が違うような気がするけど・・・・まさか!?」
「そうです、新婚なんです。」
あかねが笑顔で答える。
「しかも妊娠してるんだっけ?」
「そうなの。」

久しぶりに会う沖縄の仲間と話していると時の経つのも忘れる。
菊地は居酒屋を出る。だいぶ飲んだから酔い覚ましに海でも見に行くか。
10分ほど歩けば海岸だ。
ただ波打つ音だけがする。
空を見れば満天の星空。東京では決して見られない空だ。

「英治くん、沖縄では南十字星が見られるんだって。」

冴子の言葉が思い浮かぶ。
ひとりになるとどうしても彼女の事ばかり考えてしまう。