中学の頃から、自分のことを好いてくれる男子はたくさんいた。菊地英治もまた、その中の一人に過ぎなかった。犬好きっていう共通点があったからこそ一緒にいたというのもあった。今にしてみればそういう関係でよかったんじゃないかと思う。
卒業の日のあの河原ので未成年の主張を彷彿とさせるカミングアウトまでは・・・。
あれ以来、菊地英治のことを意識しない日はない。学校が違うからこそいっそうその思いは強くなった。それなのに彼に電話かけても、「サッカー部で忙しい」とかでそっけない態度をとる。

どうして?私のこと好きなんじゃないの?

彼の心を確かめるためにわざと大学生の彼氏とつきあってみたが、そいつはとんでもないクズだった。犯される寸前に菊地が救出に来てくれたが、これは彼女だからではなく仲間のピンチだから助けに来たんであって、結局彼の心のうちはわからなかった。
それどころか別に好きな子ができたらしく、彼女とはよくサッカーの試合を見に行ったり、水族館デートなんかもしているとか・・・水族館ならともかくサッカーの試合なんて一緒に見に行ったことない。でも、それは応援しているチームが違うからしょうがないか
どこか悶々とした気持ちを抱えながら、隅田川の花火大会の日。ビルの屋上から花火を見ながら菊地に自分の本心を打ち明ける。
「川に流されている子犬を服が濡れるのもかまわずに飛び込んで助ける・・・そんな菊地英治くんが好きなの。」
彼の顔はどこか困惑したような複雑な感じだった。
あれ以来、菊地に対する思いは日増しに強くなってくる。だけど菊地英治はどんどん自分から遠ざかっていくようなそんな気がした。

もう私のこと好きじゃないの?

瀬川さんが臨終ってなったとき、病院に駆けつけた菊地を見たとき思わず抱きつきたくなった。でも、それはできなかった。中川冴子が思いっきり菊地を抱きしめたから・・・そして、菊地も冴子を抱きしめる。まるで大切なものを壊れないように・・・

そうか・・・菊地くんは私よりも冴子さんのことが好きなんだ・・・

しかし、冴子は病気が再発して亡くなってしまった。そのときの菊地の悲しみは見ているこっちも痛々しかった。彼にとって中川冴子は運命の相手、世界中の誰よりも大好きだと宣言した相手、そんな相手を失って菊地は自暴自棄になり、挙句の果てには後を追うことまで考えた
バシッ!
「ひとみ?」
「バカ!自殺なんて絶対ダメ!!・・・・そんなことしても・・・冴子さん喜ばないよ。冴子さんの分も生きるのが菊地くんの使命だよ。」
そう言った私の目には涙がにじんでいた。