「銀の鈴動物園?」
純子が働くカフェふくろうの店内で菊地は佐織の顔を見る。
朝倉佐織の家は幼稚園をやっていたが少子化のあおりを受け、廃園寸前に陥っていた。そこでぼくらが老稚園という施設に生まれ変わらせたのだ。
しかし、その老稚園も2年ともたず、対象を行き場の失った動物たちにまで広げ、ちょっとした動物園みたいになかんじになり、近所の憩いの場になっていた。
「あれから動物たちも増えたからね、良かったらくる?」
「そうだな」

老稚園にくるのは何年ぶりだろう。ジジババ連中よりも子どもの姿が多く見られる。彼らのお目当てはここにいる動物たちだ。
「あれモモイロペリカンじゃないか!?どうしたんだ?」
「突然迷い込んできたんだって。どこかで飼われてたのは間違いないんだけど・・・・・でもすっかりここの人気者よ。」
「ネコも多いね。ネコカフェやれそう。」
純子はネコの頭をなでている。
「そこなのよ、カフェ作ろうと思うの。それだけじゃなくてペットのレンタルもできて、気に入れば里親として引き取れるような、そんな場所を作ろうと思うの。どうかな?」
「いいんじゃないか。ペットを飼いたいって人はたくさんいる。でも実際はそうはいかない。俺も生徒たちには生き物を飼うのは命を背負うこと、生半可な気持ちで飼ったら可哀想だ!ってキツく言っているからな。」
「カフェの方は任せて欲しいな。」
「そこは純子に頼むつもり。あと、ひとみ・・・・・。」
「なんでひとみなんだ?」
「彼女、今保護犬のボランティアしているんだって、だからひとみにも協力してもらおうかなって。」
佐織が何かを確かめるように菊地の目を見る。
「そうなんだ。」

その夜、久しぶりにぼくらの仲間が老稚園に集まった。しかしひとみの姿はない。
「カフェやるんだったら、おれがピザでも作ってやるよ。」
日比野だ。見た感じ100キロは超えてそうだ。顔には髭を生やし貫禄がある。都内のホテルにあるレストランで副料理長をしているとのこと。
「そんな本格的なのは求めてないよ。あくまでカジュアル志向だから・・・」
佐織の日比野に対する態度がどこか親密なのが気になる。
「いいんだ。俺もここには世話になったしな。」
「なんだ?ああそうか昔彼女がいたよな。」
天野が通る声で叫んだ。
「彼女?」
「豚のピーちゃんだよ。」
その一言で笑いが起こる。
仲間で何かあるたびに集まるといつもこうだ。きっかけは何でもいい、ただみんなで何かをやりたいだけなんだ。
「菊地・・・・」
佐竹が話しかけてきた。今は犬の訓練士をしている。
「ひとみ、近々結婚するらしい。」
「そうなんだ。相手は?」
「大学時代の先輩。」
「そうか、めでたいな。」
「いいのか?」
「いいもなにもひとみのことはとっくの昔に終わったんだ。いまさら何言ってんだよ。それにひとみのことが好きだったのはお前もなんだろ?」
「そりゃそうだけど、今は俺も結婚して子どもいるしな・・・」
「ひとみのことはもういい」
中学のときは好きだった相手・・・でも高校生になって本当の恋愛を知り、いつの間にか忘れ去られた存在。菊地英治にとって中山ひとみは黒歴史そのものなのだ。