「ひとみが好きだ!好きだぞ~!!」
河川敷で今まで口に出して言えなかった、ことばを出し切ったとき、なんともいえない高揚感を味わった。サッカーで得点決めたときの気持ちとも違う感覚。たまってた膿をすべて出した気持ちいい感覚。正直、ひとみがどう思っているかなんてどうでもよかったのだ。

高校生になってからはひとみとはまったく会っていない。いったい彼女が自分のことをどう思っているのか。それはわからない。ただ、わかっているのは中学の頃に感じたひとみに対する想いが今はまったく感じられなくなったこと・・・。
「菊地くんおはよ~」
後ろから声をかけられた。同じクラスの中川冴子だった。
「あ、おはよ~」
実は冴子との出会いは受験の時、消しゴムを落としたのを拾ってくれたのが最初だ。
入学して、同じクラスになったとき彼女と出会ってなんともいえない幸福を感じたのを覚えている。またこの娘と会えるなんて・・・きっとこれは運命なんだろうな。とか柄にもないことを考えたりして・・・・
「菊地くん、今度の日曜ヒマ?」
「日曜かぁ~特にないな。」
「じゃあさ。その日一緒に水族館行こう!」
冴子の笑顔を見るだけで幸せな気分になる。おれはうなずいた。

水族館なんていつ以来だろう・・・・・そういえば中学の遠足で江ノ島行ったな。
「わたし、水族館って好きなの。いるだけで心が落ち着く。菊地くんは?」
「おれも好きだな。生き物を見てるだけで楽しいから。小さい魚でもさ一生懸命生きててさ、おれも負けてられねぇなって・・・・」
さんご礁を模した大きな水槽にいろんな種類の魚たちが泳いでいる。なかでもひときわ目立つのがサメだ。映画で見たのより小さいがそれでもインパクトはある。
「あのサメ、ほかの魚食べないのかな?」
「あれは・・・ネムリブカ。十分に餌を与えているから、やたらと襲ったりしないわよ。性格もおとなしいし・・・・」
「そうなんだ。まだまだこの世には知らないことだらけだな。」
わからないことがあれば冴子が教えてくれる。その時間がおれにとって最高に幸せな時間だった。このままこの時間が続けばいいな・・・。そう思っていたとき、突然冴子が倒れたのだ。
「どうした!おい!!す、すみません。きゅ、救急車お願いします!」

冴子は近くの病院に運ばれた。
「大丈夫か?」
「平気。いつものことだから・・・・・」
「いつもって?」
「わたし・・・病気なの。白血病。」
「それって?」
「そう、死ぬかもしれない・・・・」
「そんなのって・・・」
「まだ、死ぬと決まったわけじゃないわよ。治った人だっているんだから。」
それからおれは白血病について調べた。

久しぶりになかまたちと旅行に行くことになった。鈍行列車ぶらり途中下車の旅。本当は冴子も連れて行きたかったけど体の調子が悪いとのことなので、電話で旅の様子を聞かせることにした。
金沢に寄った際には冴子へのお土産に木彫りのイルカのキーホルダーを買った。
「ありがとう、英治くん!これわたしの宝物にするね。」
気がつけばおれと冴子の中は急接近していた。もう、彼女のいない生活なんて考えられなかった。

相原徹がいつものように塾の掃除をしていると、親友が突然、上がりこんできた。その顔はどこか苦しそうだ。
「おい!えいじ!!どうしたんだ?なんかあったのか。」
「なんていうかさ・・・・最近、苦しいんだ。」
胸を押さえている。まさか、心臓の病気!?
「冴子のこと考えるだけで苦しいんだ。心臓がどきどきして・・・・何も手につかないんだ・・・・サッカーも、勉強も・・・・こんなことって初めてなんだ。」
「お前・・・・・」
この手の話に疎い徹でも、わかった・・・。それは恋の病だと