中国料理の知恵 | 瑞霊に倣いて

瑞霊に倣いて

  
  『霊界物語』が一組あれば、これを 種 にしてミロクの世は実現できる。 
                            (出口王仁三郎)  

 “中国料理の特徴としてまず第一に挙げられるのは、必ず火を通す、という点ではないでしょうか。中国でも、地域によっては魚など生のままで食べるところもありますが、たいがいは火を通します。これは消化吸収をよくするために他なりません。

 牛は草を食べるとき、一度のみ込んだものをまた口の中へもどして、かみ直します。反芻し、草の繊維をやわらかくしてから、ゆっくりと全部吸収するから、あれだけ大きく育つのです。中国人が生野菜を食べないのは、火を通すことによって繊維をやわらかくしてから食べたほうが胃の負担も少なく、消化が早いからなのです。

 野菜に火を通すとビタミンが溶けて出てしまいはしないかと思われるかもしれません。でも大丈夫。中国料理ではよく仕上げに片栗粉を使いますが、これは栄養を流さないための最もよい方法だといわれているのです。熱を加えた野菜に片栗粉の澱粉を化合させると、カロリーは増え、野菜の栄養価は逃がさず、しかもなめらかさが加わって味がよくなる、さめにくいというふうに、片栗粉は一石何鳥もの役割を果たしているというわけなのです。

 油をたくさん使う、これも中国料理の特徴のひとつです。油は胃にもたれるもの、というイメージがあるようですが、一概にそうはいえないのです。油のことを油脂というくらいで、油には二つの種類があります。「油」は溶けるもの、「脂」は固まるもの、この二つです。もう少し詳しく言いますと、油には、摂氏35度以下になると固まる飽和性脂肪酸と、それ以下でも固まらない不飽和性脂肪酸とがあるのです。前者がラード、ヘッド、バターのような動物性の油、すなわち「脂」で、後者が植物性の「油」です。

 人間の体温は普通摂氏35度以上あるのですから、体内に入った油は結局溶けて消化吸収するわけですが身体が弱っていて体温が低い人は、動物性の「脂」を消化しにくく、胃にもたれがちになります。中国料理ではラードをよく使いますが、その代わりに、仕上げにゴマ油を落とします。植物性のゴマ油と合わせると、ラードは35度以下になっても固まりません。片栗粉の澱粉の消化酵素も手伝って、肉も野菜も油も、みんな一緒に消化され、栄養となります。ゴマ油に含まれているリノール酸には、血液中の余分なものを取り除く働きがありますから、コレステロールもたまらない、というわけです。

 このゴマ油に加えて、クラゲ、フカのヒレ、ナマコといったゼラチン質に富んだものをよく使う中国料理を食べていれば、コレステロールのたまりようがありません。なかでもクラゲの消化力は、シコシコした歯ざわりに似合わず、なかなかのもので、まるでナメクジにかけた塩のように、食べたものすべてを溶かしてしまいます。そのうえ、胸やけ、消化不良、高血圧にもよく、ぜんそくや痰を止める効果もあります。中国の医者は脳溢血や中風のおそれのある人には、クラゲを常食にすることを勧めているほどです。タバコの吸いすぎでノドがゴロゴロするときなど、塩漬けのクラゲをきれいに洗い、そのまま三〇分くらい湯の中で煮て、汁を飲むと治ってしまいます。” (楊萬里『健康は食にあり』)

 

(「東洋医学ノート 知的生活の実践」(ダヤモンド社)より)

 

*楊萬里先生は、NHKの「きょうの料理」の講師をしておられた方で、中国料理について何冊もの著書がおありです。検索してみると、「秘密の中国料理」などはAmazonで結構な高値がついているようです。ここで紹介させていただいたのはダイヤモンド社の「東洋医学ノート」に収録されていた楊先生の小論「健康は食にあり」の一部ですが、これ以外にも陰陽五行説(五行相生、五行相剋の思想)や五味など、「医食同源」といわれる中国料理と健康との関連のみならず、その背景にある哲学についても説明されています。

 

*確かに加熱した方が野菜はたくさん摂れますが、エドガー・ケイシー療法や西医学では、生野菜を多く摂るように勧めていますし、私もやはり生の方が健康に良いように思います。ですが、伝統的な中医学では、健康のためには、何よりも体を冷やさないようにすることが強調されており、このことが意識されているようです。また、私が以前中国を旅行した時、中国料理が加熱することにこだわるのは、過去に肝炎が大流行したからだと聞いたことがあります。

 

*35度以上で固まるか固まらないかというのは、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸の定義とは違うように思いますが、エドガー・ケイシー療法では、豚の脂肪は人体にとって有害であるとして、豚肉は揚げ物と共に厳禁となっています。とはいえ、トンカツや生姜焼きなどは日本人に人気のあるメニューですし、豚肉を調理するときは、せめてゴマ油を使用すると良いのかもしれません。私は、豚骨ラーメンを食べる時は、ラー油を少々垂らすようにしています。

 

*ケイシーは、煮た野菜の料理では、野菜の煮汁も残さず飲むよう勧めています。となると「おひたし」に比べて片栗粉を使った「あんかけ」は、非常に優れた調理法だと思います。

 

*中国料理と言ってもたくさんの種類があり、四川料理、湖南料理、広東料理、福建料理、江蘇料理、浙江料理、安徽料理、山東料理の八つが中国八大料理(八大菜系)と呼ばれています。中でも「魯菜」こと山東料理は中国料理の源流とも言われていますが、本来の伝統的な「魯菜」では、意外なことに砂糖もラードも使用せず、非常に健康的な料理となっています。戦前の山東省済南で、本場の魯菜を学ばれた佐藤孟江さんは、日本人でありながら唯一人、中国政府認定特級厨師の資格を持っておられ、度々中国政府に招かれて、料理人たちの指導にあたられました。文化大革命の時に、多くの料理人たちがブルジョワに奉仕する者と見なされ粛清されてしまい、生存者がほとんどいなかったからなのですが、料理までもが批判の対象にされるとは狂気としか思えません(当時は北京ダックで有名な全聚徳も看板を叩き落とされ、強制的に店名を変えさせられています)。佐藤さんの半生が綴られた、佐藤孟江 / 佐藤浩六共著「済南(チーナン)賓館物語」(春秋社)には、伝統的な魯菜のレシピが15品ほど載っています。また佐藤さんご夫妻のことは中国人監督によって映画化され、DVDも発売されています(「味 DREAM CUISINE」)。ちなみに、山東省済南は道院・紅卍字会の発祥の地であり、周辺には泰山や孔子の生誕地である曲阜があります。

*「蒼太の包丁」の本庄敬先生のマンガ、「三国志メシ」全三巻(潮出版社)では、三国時代の料理が再現され、そのレシピも載せられています(すべて日本の食材で調理できます)。当時の資料は限られているでしょうから、かなり推測もあると思いますが、どれも美味しそうで、できればどこかの中華料理屋で、実際にメニューとして出して頂きたいと思います。