本編 その二 | Anotherを愛する会

Anotherを愛する会

原作:綾辻行人『Anotherシリーズ』のファンサイト。
主に同人小説とSSを掲載しています。
現在はイラストの勉強中なのですが、鬱障害・睡眠障害・ADHDを患っている為、捗っていません。
将来は手描きMAD・フィギュア・MMDもマスター出来たらと夢を見ています(遠い目)

 渡辺珊は薄っすらと目を覚ました。欠伸を吐き、寝ぼけ眼を擦り、ゆっくりと目を開くと、暗くて古びた天井が浮かび上がった。今の今まで夢を見ていた気がする。その内容ははっきりとは思い出せない。ただ、幸せな夢だったと思う。不思議と気持ちが温かった。

 渡辺は寝返りを打つ。すると反対側のベッドで横になっている佐藤和江と向き合う形になた。佐藤は幸せそうな表情で寝息を立てている。その愛くるしい様を見て、渡辺はくすりと笑う。

 ―――ああ、そういえば……。

 渡辺はぼんやりとした頭を、徐々に回転させる。夢には佐藤が登場していた気がする。

 ―――ああ、駄目、これ以上は思い出せない……。

 その時、雷のゴロゴロという唸りが鳴り渡った。

 ―――そういえば、小学生の頃のお泊まり会で雷が鳴って、和江が泣きべそをかいた事があったなぁ。

 ふとそんな過去を思い出す。そんな時だった。自分と佐藤以外の何者かの気配を感じ取ったのは。だが、直ぐに自分の勘違いだと思い直した。耳を澄ましてみると、雷雨や自分と佐藤の吐息の音しか聴こえなかったからだ。そう考えると、渡辺は再び寝返りを打った。まだ瞼が重い。

 ―――相部屋で良かった。和江が居てくれて良かった。こんな山奥の古い洋館で一人で寝るとか、想像しただけでゾッとする。

 そう考えた時、再び雷が鳴った。部屋が明るく照らされる。その瞬間、渡辺は咄嗟に起き上がり、佐藤の方向を向いた。壁に直立している人間の影が浮かび上がったからだった。

 「誰!?」

 渡辺は大声を上げた。部屋が暗くてよく見えなかったが、はっきりと人間のシルエットを認識した。その人物は何か細長い物をゆっくりと振り上げた。再び雷が鳴る。その瞬間、渡辺は反射的に佐藤をベッドから突き飛ばしていた。「きゃっ!」という佐藤の寝ぼけた声と頭を床で打つ鈍い音が響く。と、同時に渡辺は右足の脹脛辺りを負傷した。何者かに斧で切られたのだ。

 「……珊?一体、どうしたの……?」

 「和江、逃げて!!!殺される!!!」

 渡辺は咄嗟に泣き叫んだ。すると、時同じくして勢いよく部屋のドアが開かれ、付近にあった椅子が斧を持った人間に勢いよく投げられた。

 「珊!和江!大丈夫!?」

 隣の部屋の有田松子だった。有田は部屋の明かりのスイッチを押すと、渡辺達の元に駆け寄り、有田と佐藤は渡辺に其々肩を貸して、部屋の外へと逃げ出した。

 渡辺達を襲った人間は、合宿の管理人の一人である沼田謙作だった。

 

      ◆

 

 多々良は自室へと向かっていた。夜の十時になったら猿田が自室に戻る予定だったからだ。

 多々良は久々に幸福な気持ちで満たされていた。王子とのファーストキスを思い出すと、頬が熱くなった。だが、それ以上に自分はまだ人から必要とされている事が嬉しかったのだ。母、祖父、祖母、父、大親友、幼馴染と自分と関わりの深い人間が次々と亡くなった事によって、多々良は再び自分は呪われていると思う様になっていた。このままでは、恋人の王子すらも巻き込んでしまうかもしれない。でも王子はこんな自分を愛していると告げてくれた。それがどんなに救いになったのか、言葉では言い表せなかった。

 そんな想いに浸っている内に、自室のドアが視界に入った。部屋の明かりが点いているのが見える。恐らく、ルームメイトの中島がまだ起きているのだろう。すると、僅かに呻き声が聞こえた。声の主は中島だった。多々良は慌ててドアを開けた。

 「中島さん、どうしたの!?」

 次の瞬間、多々良は全身に血飛沫を浴びた。何者かが中島の首を撥ねたからだった。

 

      ◆

 

※ アニメ版における三神がボーッとしているシーン~恒一が食堂のドアに向かって歩いて行くシーンまでを再生するべし。

※ 勅使河原の「最近、ちょっと様子が変でさ……。」はカットして下さい。

 

 唐突に誰かに足首を掴まれ、思わず悲鳴を上げる。足元を見ると、誰かが手を伸ばして床に這い蹲っている。川堀健蔵だった。

 「川堀くん!?どうしたの!?」

 「駄目だ……もう……。」

 状況を理解出来ず、恒一は咄嗟に川堀の身体に手を伸ばす。と同時に、生温かいぬるりとした感触が掌に広がる。

 「血……!?」

 目を凝らすと、川堀の背中には深い刺し傷があった。そして夥しい量の血が流れていた。

 「まさか、刺された!?」

 「食堂を、歩いていたら……管理人が……襲いかかって、来て……。米村、が……。」

 「米村くん?」

 恒一は即座に立ち上がり、食堂へと足を向けた。恐る恐る扉の中を覗く。中は火事だった。余りの熱気に思わず怯む。目を凝らすと、誰かが椅子に座っている。米村茂樹だった。但し、彼を米村と認識するまでには時間を要した。無数の金串の様な物が全身に突き刺さっており、バケツ一杯の真っ赤なペンキを被った様に血塗れで、制服のシャツは真っ赤に染まっており、顔も生前の姿を殆ど留めていない。よく見ると、身体中をロープで椅子に縛り付けられている。無理やり椅子に座らされて固定された上で、生きながら串刺しにされたのだろう。恒一は悲鳴を上げ、扉を力強く閉めた。

 「川堀くん、逃げないと!」

 恒一は直様、川堀の上体を起こす。時を同じくして、赤沢と前島が現れ、鳴と勅使河原が戻ってきた。

 「何騒いでるの?恒一くん。」

 「サカキ?どうしたんだよ。」

 「誰なの?」

 「川堀くんだよ!怪我をしているんだ!」

 「川堀!?」

 前島は血相を変えて川堀の元へと駆け寄る。親友の変わり果てた姿を見て、顔面蒼白な表情で冷や汗を浮かべショックと怒りの余り震えている。

 「一体、誰が、こんな……。」

 「管理人さんに襲われたらしい!食堂では米村くんがっ……!」

 「米村!?」

 「前島くん、開けちゃ駄目だ!」

 咄嗟に立ち上がり食堂へと向かおうとした前島の腕を掴んで、恒一は慌てて制止する。

 「米村くんは、もう……。あんな惨い遺体……見ない方がいい。それに中は火事だから、延焼を防ぐ為に、扉は閉めなくちゃいけない……。」

 「そんな……。」

 前島は力無くその場に座り込む。そしてそのまま拳で床を叩き付け、大声で泣き叫んだ。

 「……畜生!!!畜生!!!畜生ぉおおおおおお!!!」

 

※ アニメ版における赤沢「駄目か……。」~勅使河原「いねえんだよ。」を再生するべし。

 

 そんな時だった。唐突に遠くの部屋から女の子の悲鳴が聞こえてきた。その場にいた全員の動きが止まる。すると、鳴はポツリと呟いた。

 「……今の悲鳴、柿沼さん?」

 恒一は「柿沼さん!」と叫び、反射的に駆け出す。鳴・赤沢・勅使河原も恒一に続く。ただ一人、川堀の元から離れなかった前島に対し、赤沢は「前島くんは川堀くんを安全な所へ運んで119番!」と言い残した。

 「分かった!川堀、待ってろ!今助けっ……!」

 前島が言い終わる寸前で、川堀は前島の腕を力強く掴んだ。

 

      ◆

 

 恒一達は、とある部屋のドアの前に立っていた。

 「ここが私と柿沼さんの部屋……。」

 鳴が呟く。

 「柿沼さん?大丈夫?」

 恒一はノックをした。室内から返事は無い。すると、代わりに横から声が掛かった。

 「……何?皆、どうしたの……?」

 廊下の先に立っていたのは、辻井雪人だった。手には本を抱えている。

 「辻井くん!」

 「僕は柿沼さんに借りていた本を返そうと思って……。」

 「柿沼さんの悲鳴が聞こえたんだ……。何かあったのかもしれない……。」

 「え!?」

 「まずは無事を確認しないと。柿沼さん、開けるよ?」

 恒一は部屋のドアをゆっくりと開けた。すると中から風が入ってきた。暗がりでよく見えないが、窓が開いているのだ。その時、偶然雷鳴が響き渡り、部屋が明るく照らされた。その瞬間、恒一達は声にならない悲鳴を上げた。誰かが天井からぶら下がっているのだ。恒一は慌てて部屋の照明を点けた。そこに現れたのは、照明からロープで吊るされた柿沼の首吊り死体だった。柿沼の遺体は凶器の様な物でズタズタに切りつけられている。

 「嘘だ……。嘘だ!!!嘘だ!!!嘘だ!!!嘘だぁあああああああ!!!」

 変わり果てた柿沼の姿を見て、辻井は錯乱状態に陥った。柿沼の元へと駆け寄り、泣き叫んでいる。そんな悲惨な光景を目の当たりにして、その場にいた全員は胸がズキズキと痛んだ。だが、今は柿沼の死を嘆いている場合ではなかった。

 「ここは危ない!柿沼さんもきっと管理人に殺されたんだ!それに食堂では火事が起こっている!急いで皆にこの事を知らせないと!」

 恒一は努めて冷静な口調で言った。

 「分かったわ!」

 「風見も手分けして探さなくちゃな。」

 赤沢と勅使河原はそう答えると、直様、部屋を飛び出した。

 「……皆は、先に、逃げて……。」

 そんな中、辻井は蹲ったまま、大粒の涙を流しながらボソリと呟いた。

 「辻井くん、でも……!」

 「……せめて、遺体だけでも、持ち帰って、あげたい、から……。」

 辻井は大粒の涙を流し悲痛な表情を浮かべながらも、無理をして僅かに微笑んだ。

 「……分かった。出来るだけ急いでね。」

 恒一は振り返り、部屋を出ようとする。すると、いつの間にか鳴も居なくなっていた。

 「見崎!?」

 恒一は慌てて携帯電話を取り出した。しかしアンテナが立っていない。止むを得ず、恒一は一人で部屋の外へ飛び出した。

 「……火事だ!逃げろ!」

 恒一は隣の部屋だった王子と猿田の部屋に駆け込んだ。

 「えっ……。」

 「火事?」

 突然の出来事に二人は唖然としていた。

 「それだけじゃない!米村くんと柿沼さんが管理人に襲われて殺された!川堀くんも襲われて瀕死の重傷で……。今、この館内は殺人犯が彷徨いている!早く脱出するんだ!」

 「そんな……。」

 王子は血相を変えて部屋を飛び出した。

 「王子くん!一人で行動するのは危ないよ!」

 「メグを置いて逃げるなんて絶対に出来ない!」

 恒一と猿田は慌てて王子を追いかけた。

 王子は多々良の部屋へ向かい、勢いよく扉を開けた。次の瞬間、凄惨な光景が広がり、生々しい異臭が漂ってくる。室内は地獄絵図そのものだった。夥しい鮮血がありとあらゆる家具・壁・床を真っ赤に染めている。思わずよろめくと足元に何かが当たる。多々良のルームメイト・中島幸子の生首だった。よく見ると、腕・胴体・脚もそこらかしこに転がっている。

 「ひぃいいいいいい……!」

 王子は悲鳴を上げて腰を抜かした。追いついた恒一と猿田も中島の無残な惨殺死体に驚愕した。

 「酷いぞな……。何で……どうして……。」
 猿田は吐き気を堪えながら壁に凭れ掛かった。

 王子はガタガタと全身が震えながら涙目になっていた。そんな錯乱状態に陥っていた王子を救ったのは、最愛の恋人・多々良の存在だった。彼女の笑顔を思い出すと、王子は冷静さを取り戻し、透かさず立ち上がった。

 「……榊原くん、猿田、二人は先に脱出して。僕はメグを探さなくちゃいけない。」

 「王子くん!?」

 「態々知らせに来てくれて、ありがとう。」

 王子は笑顔を浮かべてお礼を述べた後、恒一の制止を無視して、王子は部屋を飛び出した。すると、猿田は一息付いて、恒一の肩に手を置いた。

 「サカキは先を急ぐぞな。王子にはわしが付いてる。安心するぞな。」

 そのまま猿田は親友を追いかけた。

 

      ◆

 

 場所は恒一と望月の部屋へと移る。室内には望月が一人でベッドに座り込んでいた。

 「望月!風見を見なかったか!?」

 勅使河原は血相を変えて部屋に飛び込んだ。

 「風見くん?僕の所には来てないけど……。」

 「そうか……。緊急事態だ!管理人達に米村と柿沼が殺された!川堀も襲われて大怪我を負っている!この館内では人殺しが彷徨いているんだ!しかも火事まで発生して……!急いで部屋を回って皆に知らせないと!」

 「人殺し!?」

 「その上、俺の所為で風見まで行方不明だしな……。もう滅茶苦茶だ!」

 

※ アニメ版における望月「三神先生に伝えないと……!」~勅使河原と望月が凶器を手に持ち発狂している管理人の妻・沼田峯子と出くわして悲鳴を挙げるシーンまでを再生するべし。

 

 そこに立っていたのは凶器を持った血まみれの管理人夫妻の片割れ・沼田峯子だった。

 勅使河原と望月は悲鳴を上げて後退る。と、同時に管理人は奇声を上げて、斧を振り翳し、二人に襲い掛かって来た。勅使河原は思わずよろめいて壁にぶつかりそのまま尻餅をつく。その隙を狙って、管理人は勅使河原をターゲットにしながら、攻撃を加えた。

 「痛ぇえええええええ!!!」

 勅使河原は咄嗟に体制を立て直し攻撃を避けようとしたが、完全には避け切れず、激痛が左肩を襲った。その次の瞬間、望月は横から管理人に体当たりして、透かさず勅使河原の元へと駆け寄った。

 「勅使河原くん、大丈夫!!?」

 「まぁ、何とか……。」

 「急いで逃げよう!!!」

 望月は勅使河原に手を差し伸べて、体勢を整える。そして二人で走って逃げようとしたその瞬間だった。管理人は斧を望月に目掛けて放り投げ、それが彼の脚に命中したのだ。望月は足を負傷した痛みに悲鳴を上げて、そのまま勢いよく転んだ。

 「お、おい!!!大丈夫か、望月!!?」

 勅使河原は慌てて望月の元へと駆け寄る。

 「駄目だ……。今ので足を挫いたみたい……。」

 「畜生っ……!!!」

 勅使河原は透かさず望月に肩を貸し、その場を離れようとする。しかし、管理人は立ち上がり、二人を追いかけてきた。

 

      ◆

<追記:2023年7月5日>

※追記・修正を行いました