【後編】
■3つの詩について
今回私は、合唱組曲の制作のために、大好きな南吉作品の中から「赤狐」「枇杷の花の祭」「貝殻」という3つの詩を選びました。
それぞれの詩について、簡単にではありますがご紹介させてください(私個人の解釈も含まれますことをご容赦ください)。
Ⅰ. 「赤狐」
青い月夜。向かい山の林から赤狐が鳴き、あれがほしい、これがほしいと次々に品物を要求してくるお話です。
知多弁と思しき言葉によって書かれており、赤・青という色彩のコントラストも強く印象に残ります。どこか幻想的な風景です。
ある原稿用紙の裏面に書かれていたという異色作で、同じくきつねが登場する代表作「ごんぎつね」「手袋を買いに」とは一味違った魅力を持つ作品。
II. 「枇杷の花の祭」
枇杷の花にミツバチが集まっている様子を、楽しそうにお祭りしている様子になぞらえて描いた詩です。
枇杷は冬に花を咲かせる木ですが、詩の中に寒々しい表現はなく、むしろほっこりとした温もりが感じられます。
コール・アンド・レスポンス的な反復、柔らかで優しい印象の美しい言葉、擬音の楽しさ。そして身近な小宇宙である自然界をのぞきこむ、童心にあふれた眼差し。南吉氏の作風の特徴が詰まった一作です。
Ⅲ. 「貝殻」
"かなしきときは 貝殻鳴らそ。
二つ合わせて息吹きをこめて。……
誰もその音を きかずとも、
風にかなしく消ゆるとも、……"(抜粋)
非常に有名な詩で、南吉氏の命日「貝殻忌」の由来となっている作品でもあります。
私の中で、この「貝殻」という詩には少し特別な思いがあります。
初めて作品を読んだとき、言葉の向こうに透けて見えてくる心がありました。その心に触れたときに感じたイメージや思いをなんとか音楽で表現して、一人でも多くの方と分かち合えたら......。
そのような衝動に駆られ、「貝殻」は全3曲中で最初に(それも驚くべきスピードで)書き上がった大切な曲なのです。
「枇杷の花の祭」と「赤狐」も、この「貝殻」の曲を前提として書き進めていきました。各曲は、音楽的に連想のように繋がっており、やがて静かな貝殻の浜辺へと自然に導かれていく構成となっています。
組曲全体の重心は終曲「貝殻」に置かれていますが、もちろんどの曲も大変気に入っており自信作です。ぜひ全曲を聴いていただけたら嬉しいです。
■最後に
新美南吉氏による3つの素敵な詩が、私というフィルターを通ったことでどのような音楽作品へ変貌したのか……。
各曲の仕上がりについては、実際に会場でお聴きいただき、体験していただけたらとても幸せに思います。
ぜひとも、混声合唱団 コール・アマフォークの皆様の演奏にご期待ください。
南吉さんの詩、そしてそこから生まれた音楽の世界をお楽しみいただけましたら幸いです。
2024 年 10 月 27日 作曲者 加藤 洋太