日常 OF THE DEAD -4ページ目

日常 OF THE DEAD

総合自分自身芸術家
炬燵の王様チョップ・イチロットン
オフシャルブログ


『怪獣の唄』


オレたち怪獣

名前はゴジラ

原子力が生んだ

破壊の神


オレたち怪獣

名前はゴジラ

すげえ能力があるぜ

本能で生きている


渡り廊下ですれ違った時

君は微かに石鹸の匂いがした

君を踏んづけたい

君に踏んづけられたい

そのために生まれて

そのために死んだ


オレたち怪獣

名前はゴジラ

海からやってきて

海に帰る


オレたち怪獣

名前はゴジラ

すげえ能力があるぜ

本能で生きている


渡り廊下ですれ違った時

君は確かに石鹸の匂いがした

君を踏んづけたい

君に踏んづけられたい

そのために生まれて

そのために死んだ


オレたち怪獣

名前はゴジラ

原子力が生んだ

破壊の神だ





磨りガラス越しに見てもイイ女であることがわかった。

店に入ると、女はひとりカウンター席の真ん中に座り、ラムベースのカクテルを飲んでいた。

オレはそこから二つ空けた席に座った。

ミントの香りが微かに感じる距離だ。

何も言わずともバーテンダーはいつものドリンクを作り、オレに差し出した。

店内には静かにスタンダードジャズが流れている。

女とバーテンダーに会話はない。

むろん、オレも言葉は発しなかった。


マックス・ピカート はこう言った。

「もしも言葉に沈黙の背景がなければ、言葉は深さを失ってしまうであろう」と。


女はラムのカクテルを飲み干すと、バーテンダーに次のドリンクを頼んだ。

同じくショートグラスに注がれたそれは「キッス・オブ・ファイア」というカクテルだった。

女はグラスを受け取ると、それをオレに差し出してきた。

飲めと言うのか?

それとも単に乾杯か?

オレは自分のグラスを女のグラスに軽く当て、また黙ってスマホの画面に目を戻した。


女の飲むカクテルは、女の口紅の色と同じだった。

一瞬近寄った女の匂いは南国のフルーツの香りに似ていた。

バーテンダーはカウンターの端でグラスを磨いている。

オレは女に検索したスマホの画面を見せて言った。

「僕が持ってる一番大きいゴジラのフィギュア、40万円の値が付いてるんだぜ!」


キッス・オブ・ファイア、

情熱のカクテル。



かのシャルル・ボードレールは「長すぎる詩は短い詩の書けない連中の考えたものだ。長すぎる詩は全て一編の詩ではない。」といい、

かの草野心平は世界一短い詩といわれる「冬眠」をという記号ひとつからなる究極の自由詩で表した。


時に、1文字も書けないことがある。

例えば、ラブレターの出だしの1行目がまったく書けないことがある。

「こんにちは」なのか「こんばんは」なのか、はたまた「前略」なのか「拝啓」なのか。

あるいは唐突に「好きです」とか「愛してる」とか。


散々ぱら散らかった部屋の隅に小さな箱が転がっていた。

桐の小箱。

開けてみると、中にはこれまた小さなポチ袋が1封。

表書きはない。

袋の中には1枚のメモ用紙。

「ありがとう。じゃあ、またね」


革命家が振る1旒の旗に書かれた文字は、世界を変えるために槍で突かれ、砲弾を浴び、キャタピラに潰された者たちの詩(うた)だ。

雪に埋もれた墓の碑銘は真夏を謳歌したキリギリスの詩(うた)だ。


扇風機はまだ「そよ風」で回っている。

脱げかけの靴下は爪先で止まっている。

やっと1行書けた。

もう、これでいいのかもしれない。

季節の変わり目に。


詩人