ある程度ご飯を食べ終えた頃に、理佐が由依の肩を叩いた。
「由依、自分の口から言える?」
優しい口調で、由依に問い掛ける。
由依は小さく頷いてから、私ともんたと視線を絡める。
「私が、理佐に家庭内暴力に気付いてもらえた時の話なんだけど……」
由依は、一呼吸置くと静かに語り出した。
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あれは、中学二年生の時の校外研修の前日だった。
私は、その日は理佐の家にお邪魔して、帰宅するのがいつもよりも遅くなってしまった。
門限が決められていた訳ではないんだけれど、お父さんよりも帰宅が遅いと、何かと暴力を振るわれていた。
玄関の扉を開けようとした時、中からお父さんの声が聞こえて、覚悟を決めるしかなかった。
「……ただいま…」
恐る恐る言葉を発せば、居間からお父さんが鬼の形相で出て来て、勢い良く髪の毛を鷲掴みにされて、居間に身体を叩きつけられた。
「お前の責任でもあるんだ。お前がお仕置きしろっ」
お父さんに命令されるお母さん。
お母さん、良いよ。
私なら、大丈夫だから。
そんな思いでお母さんに頷いてみせる。
お母さんは、震える手で、私の頬を何度も叩いてきた。
自分の身体が、あそこまで弱っているとは思わなかった。
お母さんの平手打ちですら、頭に響く。
ふと、耐え切れずに、体勢を崩してしまった。
その瞬間、左頬をお父さんの拳が襲う。
勢いで壁に背中を打ち付けられる。
「っ……ぐっ…」
ここで、私は初めて気付いた。
私の身体に、抵抗する力など、残っていなかった。
「起きろ!立て!」
「っ……」
震える腕で、上体を支え、何とか立ち上がれた。
その瞬間、また髪を掴まれる。
そのまま引き摺られる様に、お風呂場へと連れて行かれた。
後頭部を掴まれ、水の張った浴槽に顔を沈められる。
息をしない様に必死に堪える。
それが気に食わなかったのだと思う。
お父さんは、私のお腹に膝を入れた。
すると、反射的に口が開いてしまい、水がどんどんと流れ込んできた。
殺される。
本能的にそう感じた。
息が切れる前に、お父さんは水から顔を出させてくれた。
でも、それは情けとかではなかった…。
「はぁっ……はぁっ…」
何も言葉を発する事が出来ず、無我夢中に酸素を求めていると、すぐに再び顔を水の中に沈められる。
水がどんどん入って来て、苦しい…。
まるで、海や川で溺れた様な感覚だった。
お父さんは何度か、私の顔を水に浸ける、出すを繰り返した。
最後に、顔を出された時には、私の意識は朦朧としていた。
掴まれていた頭が解放されると、私の身体はお風呂場に倒れ込んだ。
その時には、お風呂場のタイルの冷たさを感じられなかった。
たぶん、それだけ私の身体が冷たくなってきているのだと感じた。
全く動けずに倒れたままの私に、お父さんは仕上げと言わんばかりに、シャワーから水を出す。
倒れる私に掛かる様に、固定すると、お風呂場の扉が閉められた。
身体に降り注ぐ水の冷たさが、微かに感じられたけれど、段々とその感覚がなくなっていく。
唯一、反射的に身体が小刻みに震えるだけ。
朦朧としている意識は、いつ飛んでもおかしくない状態だった。
でも、手離したくなかった。
理佐と、翌日の校外研修に行きたかったから。
ガタガタと震える身体に、容赦無く降り続ける水。
せめて、この水を止めて、お風呂場から出られれば…。
そう思って、身体を動かそうとしたけれど、もう限界だった。
私の手足は、ピクリとも動かず、指さえ動かなかった。
「……り、…さ……」
理佐に、会いたかったな…。
そこで、私の意識は途絶えた。
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「私が覚えてるのは、ここまで…」
由依が語り終えた時、隣のもんたは既に泣いていた。
理佐と由依の関係に、こんなにも壮絶な過去があっただなんて…。
「その後の事は、理佐が教えてくれるよ…」
そう言って、由依は理佐に視線を移す。
理佐は小さく頷いてから、私達に向き直した。
理佐の真っ直ぐな視線が、私達を見据えた。