全てを知ってしまった理佐の目は、愛佳と出会う前みたいに、澱んでいた。
私が言えた義理ではないんだけど、私も理佐も、茜や愛佳に出会って、少しは変われたと思うんだ。
でも、どうしておかあさんと渡邉さんが、あのタイミングで理佐に全てを告げようとしたのかが、分からない。
渡邉さんが、実の息子を連れてきていた所を見ると、もしかしたら、理佐の事を引き取りたかったのかも知れないね。
でも、そんなの勝手だよ。
今まで、理佐は天涯孤独だって、突き付けられていたのに、それが、今になって、実は父親が居ました、だなんて。
しかも、それが渡邉さんときたら、余計にね。
結局、おかあさんも、何より自分が大切だったんでしょ?
でもね、苦しむって分かっていながら、そんな理佐を救ってあげないおかあさんや渡邉さんは、”人間失格”だよ。
私は、別に人間失格になりたくないから、理佐を救いたい訳ではない。
理佐が愛佳を苦しめている事が、許せないんだ。
そして、理佐が自分の気持ちに向き合ってくれないのが、嫌なんだ。
気付いてよ、理佐。
私でも気付けたんだよ?
理佐の方が、理解は早いでしょ?
「愛佳、カッターってある?」
「え…あ、職員室で借りてくるよ」
「ありがとう」
切りたいんでしょ?理佐。
切らせてあげるよ。
「由依、これ」
「あ、ありがとう」
「リストカット…させるの…?」
「それはさせないから。大丈夫、安心して?」
保健室の入り口に着いた。
中を覗くと、理佐は起きている様子だった。
愛佳には、後で入って来てもらう様に伝える。
理佐、つらいよね?
でもね、私、それでも羨ましく思えた事があるんだよ。
それは、理佐のご両親は、生きているという事実。
会おうと思えば、会えるって事でしょ?
私には、それが羨ましいよ。
でも、理佐には、苦痛でしかないよね。
その苦痛は、和らげてあげる。
だから、ちゃんと愛佳に甘えて?
理佐も、勇気を出して。