「鞠子さんちの前の家、2万円で売りに出ているよ」
「うそ! 2万円!」
いくら何でも2万円はありえんでしょう。
半信半疑でネット検索したら、確かに「販売価格2万円」となっていた。
木造二階建て・庭付き・駐車場付き・いちお市内。
もともと古い家なのにもう何年も空き家になっており雑草天国。2万円で買ったとしても、住めるようにするには相当お金がかかる。
だとしても2万円は破格すぎるほど破格な値段だ。
ダブルワーク専用の仕事場にしてもよい。なんなら姉を呼び寄せてもいいかもしれない。
…と真剣に考えたところで目が覚めた。夢だった。
ところでこの空き家、現実問題、非常に困っている状態なのだ。
風が強い日など、伸び放題の木から大量の葉が落ち、わが家も含めて隣近所、落ち葉だらけ。
特に空き家の隣家の被害は深刻で、伸びた根のせいで、門柱が縦にひび割れてしまっている
それよりなにより、伸びた枝葉が電線に覆いかぶさったり巻き込んだりしてしまっているのだ。
このままにしておいたら断線し、電気の供給やネット関係など、大惨事に陥るかもしれない。
こういう場合、どこに連絡したらいいのだろう。
市役所? 電力会社? NTT?
毎朝出かけるたび、この木を見上げては鬱々とした気分になっているのだが、門柱を割られている宅のご主人によると「全部連絡した。管理会社にも連絡した」のだそうだ。
結果、電力会社が電線にカバーをつけてくれただけ。でもそんな簡単な手当てで大丈夫なんだろうか。
ご主人は市役所に「うちがお金を出してもいいから木を切らせてくれ」とまで言ったそうだが、もちろん市役所の回答「No」。たしかに、所有者がいる限り、どう考えてもこれはOKが出ないだろう。
持ち主は「東京に引っ越した」と聞いているが、近隣の喫茶店でアルバイトをしている近所の娘さんによると「結構な頻度でコーヒーを飲みに来る」らしい。
家同様、町内の月ぎめ駐車場に車ももう何年も置きっぱなし。ここの賃料は払っているのだろうと思うけど、車検とかしていないわけで、もう動かすこともできないだろう。
住んでいるときから、何となくワケありな感じのご夫婦ではあったが。
ひび割れた門柱をなぞりながらご主人曰く「もう弁護士に頼む段階かもしれない」。
夢の中「2万円で売りに出ていた」とは、冗談でも言えなかった。
苦情など 意にも介さぬ 人もいる
鞠子