隣のおじいさんが、どうもまずいことになっている。
御年90歳超。耳はほとんど聞こえない。だが、どうにかこうにか自力で歩き、週に数回、デイサービスに通ってらっしゃる。
この激暑の夏も、何とか乗り越えられたようなのだが……
何がまずいか、というと、とんでもない時間に「お嫁さんの大声」が聞こえてくるからなのだ。
今日など、夜の9時過ぎに車を止めたら、いきなり叫び声が聞こえてきた。
これはただならぬことが起きたと思い、思わず隣家の家の前に行ってしまった。
だがしかし、以降、ときどき聞こえてくる話を総合すると、おじいさんが「ご飯を食べさせてもらっていない」とお嫁さんに詰め寄っているらしい。お嫁さんは、「さっき食べた」それも「全部食べつくした」と大声で怒鳴っている。なにしろ耳が遠いから、大声で話さざるを得ず、怒鳴っているように聞こえてしまう。
食べつくしただけでなく、ごみ箱に捨てられたものを取り出して食べようとしているところを見つかったのが事の発端らしく、お嫁さんは「それを食べたければ食べればいい!」とぶちまけていた。
御飯を食べてない……老人、あるあるの話だ。
私の母は、「お金を盗られた」はあったけど、「ご飯を食べてない」はなかった。
「お姉ちゃんが死んでしまった」はあったけど、妹の私は最後まで生きていた。
おじいさんもお嫁さんもさぞ大変だろうと察して余りある。
隣の今のおじいさんを見て、それから母を介護していたあの頃を思い出して、私は長生きしたくないなとつくづくに思う。
逝くときは 高速ジェットに 乗ってきたい
鞠子