目にした書評に魅かれて、月村了衛『欺す衆生』を読みだした。
戦後最大の詐欺といわれた豊田商事事件を題材に書かれている。
「魅かれた理由」はただ一つ、この豊田商事事件にちょっとした思い出があるからだ。
私は、同時、同級生の99%は教員になる学部にいた。
教員になりたいから、あるいはなるつもりで入学している友人ばかりだった。
教育実習に行って、私には教員は無理だと判断したが、そういう学部ゆえ、一般企業からの求人などほぼゼロ。そのくせ、就職することにそれほど危機感を持っていなかったが私に、友人が一枚のチラシを持ってきた。
それが豊田商事の社員募集チラシだった。
そのころ、もう豊田商事の問題はかなり表面化していた。
だが、友人は、そのことをあまり知らなかったのではないかと思う。進路の決まらない私を思って善意で持ってきたことは間違いなかった。
破格の給与が明記してあったような記憶がある。
だが、そこに書かれた「営業」という職種は教員以上に私にはムリだと思ったし、もっと言ったら、私には「どこかで勤める」という実感すら持っていなかった。
彼女にどうやって断るか。
すごく悩んだ。悩んだ結果、「以後、そのことには触れず、忘れたふりをする」というずるい方法で逃げてしまった。
定年退職し、社会人として第1の人生を終えた今、豊田商事にまつわって書かれたものを読むのも悪くない。
むしろ、是非読んでみたい、そう思った。
月村了衛さん、私と同じ年。
豊田商事事件には、同じ年齢で遭遇している。
『欺す衆生』、長編で本が重いのが難点だけど、とても楽しみ。
マスコミの 面前で死す 人ありき
鞠子