ちょっとしたきっかけで獅子文六『てんやわんや』を読んだ。

獅子文六作品は初めて読んだのだが、ほどよく軽妙で「なんか吉本新喜劇みたい」と興味を持ち、続けて『悦ちゃん』を読んでみることにした。

 

うーん、やっぱり面白い。

いや、これは超真面目な人が読んだらまさしく「育児放棄」であり「ネグレクト」ということになる。

 

主人公・碌さんと一人娘・悦ちゃん。

碌さん、富豪のお嬢様との再婚話が持ち上がり、幸か不幸かその再婚相手にぞっこんになってしまった。

もともと相手の方が碌さんを見初めたのだが、第三者(読者)から見たら、どう考えても合いそうになない。やっぱり彼女は碌さんを裏切る。それでも碌さんはあきらめきれず、悦ちゃんを置き去りにして彼女を追っかける。父不在の間、借金は積み重なり、家も追い出され……

 

……って、書いたらやっぱり育児放棄以外の何物でもないじゃん。

でも、この作品、暗さはみじんもないのである。

何より悦ちゃんが元気で明るい。こんな逆境も、子供らしい機転で元気溌剌に乗り切っていく。

そして、碌さんがなんとも憎めない。悪い父である以前に、人としてなんか憎めないのだ。

 

そもそも『悦ちゃん』という題名自体、底抜けに単純ではないか。

 

今から90年近く前に書かれた作品、それも長編だが、登場人物全員「どこか抜けてます」感が絶妙。

めっちゃ面白い。

がんばれ、悦ちゃん!とエールを送りながら楽しめる作品。

 

 

 

 

 

 

こんな子が こんな時代が 懐かしい

鞠子

 

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