ときどき通る県道沿いに建つ産婦人科の建物に、足場が組まれていた。

建築業者の名前を記した黄色のシートが、足場の一角に看板代わりみたく掲げてある。

 

ようやく手を入れることができるようになったんだ。

なんだか妙に感慨深かった。

 

レンガ造りのがっちりした、でも上品ないい建物。

そして、その隣には、白壁の大きな院長宅が建つ。

だが、産婦人科は閉院してもう何十年も経つ。おそらく隣の自宅も、ほぼ同じ年月、無人だったと思われる。

院長が殺害されるという事件があったからだ。女性関係のトラブルが発端で。

犯人は、確か妻だったような···

それも結構センセーショナルな方法で殺害されたような記憶がある。

 

殺害現場は、別の場所だったはず。

それなのに、この医院、町なかのいい場所に建っているのに、引き取る人も買い取る人もいなかったのだろうか。


事件以来、レンガ色と白色の大きな建物は、ずっと立ち続けていた。

自宅前の木だけが、伸び放題で巨大な姿になっており、それもまた胸に来る。

建物の内部の荒廃ぶりを想像すると、怖くなる。

 

それでも、もはや、そんな事件があったことなど知らない人たちのほうが圧倒的に大いに違いない。

このあと、産婦人科の建物はどんな姿に形を変えるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

人々の 思いを封じ 時流る

鞠子

 

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