どこかの駅で、客様数人とどこかへ向かうべく、電車を待っていた。
私の周りに客様数名、少し離れたところにも、数名の客様が固まって雑談している。
そこへ電車が来た。
ところが、車両が短かったようで、私たちの待っているところよりもずっと前のほうに停車した。
つまり、私たちの目の前には電車がいない。
なのに、少し離れたところにいた客様・M社長が、そのまま前に進み、すぽりと線路に落ちてしまったのである。
なぜ? 何でそうなるの?
私も他の客様も、急いで線路際に駆け寄った。
大勢の人が「救急車を呼んで!」「駅員を早く!」と騒ぎ出した。
だがしかし、救急車も駅員も全然来ない。
それなのに、騒然とする現場の中、線路に横たわるⅯ社長を見、私は全然違うことを思い出したのである。
かれこれ1か月くらい前、車で片側1車線の国道を走っていた。
目の前の信号が赤になり、右折のみ可の緑色の矢印が出た。
それなのに私は、その交差点を直進で突っ切ろうとしたのである。
急いで急ブレーキを踏んだ。前方から、左折する車もなかったため、大ごとにはならなかったが。
その後、私はしばらく茫然としていた。
前方からの左折車がいないから、横着して渡ってしまえ、と思ったわけでは決してないのだ。
赤信号をちゃんと確認した。右折車だけが通行できることも、頭でちゃんと理解した。なのに、アクセルを踏んでしまったのである。
なぜだか分からない。今振り返っても、なぜだか分からない。
神に誓って、一滴も飲んでいない。
Ⅿ社長が線路に落ちたくだりは夢。
赤信号でブレーキを踏んだのは、現実にあった話。
私は夢の中で、あのときのことを思い出した。
M社長は、「目の前には電車がいない」ことを確実に見た。それなのに、「電車はいる」ものとして、足を踏み出してしまったのだ。
赤だと確認したのに直進しようとした私同様。
改めて、運転する際は細心の注意を払わねば、と心に誓った。
M 社長は、血こそ一滴も流れていなかったが、線路の上で明らかに死んでいた。
赤だった あのとき死んで いたのかも
鞠子