車内で「ミカン泥棒」のニュースを耳にした。
木になっているミカンをちぎり取って盗んだらしいのだが、捕まった犯人はシルバー人材センターの登録員で、そのミカン畑だかミカン畑の付近だかで、何かしらの作業を請け負っていたらしい。
シルバー人材センターの責任者みたくな人たちが、お詫びの会見を開き、頭を下げていた。
その中で、登録員がミカンを盗んだ理由を言っていたのだが、なんと「おいしそうだったから」なんだそうだ。
これを聞いて思い出した。
大学時代、同じ科のみんなと指導教授と共に、旅行に行くしきたりがあった。「万葉旅行」なる名称で、奈良だったか京都だったかに行くのだが、決められた史跡とか名所を自由に回れといった適当なスケジュールの旅行。
親しくしていたトモは、全員「なまけ者」で(←私も含めて)、できるだけ楽をしようという点で意見が一致し、レンタサイクルをすることになった。
だがしかし、中に一人だけ「アスリートもどき」がおり、頑として「歩く」(←正しくは「走る」)と言ってきかなかった。
そこで、彼女一人が別行動をとることに……
ところが、このレンタサイクルが裏目に出た。
どこへ行ってもアップダウンの連続で、自転車がお荷物になってしまったのだ。
なまけ者チームはへとへとで、史跡も名所もとうの昔にどうでもよくなってしまった。今と違って、自販機もなければコンビニもない。スマホもガラケーもなければ、飲物すら誰も持っていない。
自転車を横倒し、大きな屋敷の石垣にもたれ途方にくれるばかりだったのだが、その石垣からミカンをたわわに実らせた枝が若干、道の方に飛び出していたのだ。
それはそれはおいしそうで、オレンジ色がここぞとばかりに光り輝いていた。
私たちは、ミカンの群れを垂涎状態でながめるしかなかったのだが、トモの一人がふとつぶやいたのだ。
「ミカン、食べてくれって訴えてる」
そうして彼女は、私たちが止めるのも聞かず、ミカンを1つもいで食べ始めた。
「道に飛び出ている分は、この家のものではない」とめちゃくちゃな理由まで言い出して。
彼女以外、誰もミカンを盗る勇気(?)はなかったが、大笑いしたことは間違いない。
明らかに犯罪なのに。
その後、どうにかこうにか宿にたどり着いたのだが、アスリート系もどきはとうの昔に帰ってきており、もうお風呂も済ませていた。
だから言わんこっちゃないとばかり、ものすごく、得意げに。
「おいしそうだから盗った」発言から、この昔の懐かしいシーンを思い出した。
でも、このときのなまけ者チーム、そのうちの一人はもう、この世にいない。
ミカン食む 横顔を見つめた 友・友・友
鞠子