夕方、家に帰ったら、郵便箱にポリ袋の粗品と「朝日新聞」と書かれた小さなパンフレットが入っていた。
留守中、営業に来たらしい。
飛び込み営業の段階で、もう粗品を配るのかと、少々いぶかしくは思ったが。
家の中に入ったら、ドアフォンが点滅していた。
確認したら、見たことのない男性が写っていた。手には、今、ここにある粗品を持っている。
どうやらこの人が、営業マンだったようだ。
その日の夜、またドアフォンが鳴った。
見たら、さっき、写っていた新聞営業マン。
また、来たのか。なかなかしぶとい。
ドアフォン越しにしゃべった。
私は1か月ほど前、長年取ってきた地元紙をやめ、読売新聞に変えた。そして、今、ここにいる営業マンは、やめた地元紙の販売店の人で、「どこか、他の新聞に変えられたのですか」と聞いてきた。
私に答える義務はない。
「そうですね。どうかなあ。どうだったかしら……〇✕△@+*>」
適当にごまかした。
そうしたら「朝日新聞も扱っていますが」と畳み込まれたので、今度ははっきり、
「取らないです。ごめんなさい」
と言った。
ポリ袋をもらってしまった弱みもあってか、つい、私のほうが「ごめんなさい」と謝ったのである。
本当は、謝る必要などない私が「ごめんなさい」と言ってしまったのである。
そうしたら、その営業マンは何と言ったか。
…何も言わなかった。
何も言わず、いきなり背を向けた姿がドアフォンに写っていた。
余りにも唐突に、敵は話をブチっと切った。そして、その背中には、でかでかと「ムカついた」と書いてあるが如くだった。
普通、「ではまたよろしくお願いします」とか「夜分、失礼しました」とか、そんな言葉で締めくくるのが常識だろう。
新聞離れが進み、新聞社も販売店も苦戦を強いられているわけで、新聞の飛び込み営業がどんなに大変かは分からなくもない。
だが、こういう態度では、ますます状況は悪化する。
思えば、地元紙を断る際、私は物すごく恐縮して電話したのだ。しかし、販売店の対応は、「あ、そうですか」といともあっさりしたものだった。引き止める言葉など、ただの一つもなかった(←それはそれで、ホッとしたのも確かだが)。
それなのに、あとから営業マンを寄越して、それもこの態度、とは。
新聞業界、本当にまずいよ、この状況。
ポリ袋 ごみとか入れて いいかしら
鞠子