『けものたちは故郷をめざす』は、安倍公房の作品。
私は、安倍公房を読むのは避けたい人。
空想が過ぎて、つかみどころがない、というか、理解の範疇を超える、というか。
なのに、なぜかつい、買ってしまうのである。
例えば、最近読んだのは『方舟さくら丸』と『飛ぶ男』。
何をどうとらえていいのか分からない。詳細は全然頭に残らないのに、その世界がいつまでも尾を引く。ユープケッチャとかデンドロカカリヤとか、今の私の記憶力だったら絶対覚えていそうにない言葉までもが、なぜか心に居座ってしまうのである。
なので、そのつもりで『けものたちは…』を読みだしたのだが、これは、今まで読んだ安倍作品とは全く趣を異にしてた。
主人公・久三は、ソ連軍が侵攻し、混乱する敗戦前の満州で、日本に向けて逃走を図る。
極寒・食糧なし・水もなし。道中を共にすることになった訳の分からない男は、信じられるのか、信じられないのか。
極限に置かれた人間は、心身ともに壮絶な、そして異常な状態に陥る。それが、皮肉なことに、安倍公房らしからず、ものすごくリアルでものすごく分かりやすい。
反戦文学などという単純な言葉ではくくれないほど、複雑で、胸が悪くなる悪夢。
これはいけない。
安倍公房から離れられなくなりそうだ。
指を切る 痛みを感じぬ 地獄絵図
鞠子