2024年度の文化功労者の発表があった。
もう10年ほど前のことだが、今回受賞した歌手の演奏会に行ったことがある。
その日、体調があまりよろしくないとのことで、開演前「座ったまま歌う」とのアナウンスがあった。
え、そんなこと、ありか、と思った。
そもそも座ったままでは歌いにくいだろうし。
聴衆は、全員、対価を払っているのに、初めから「不完全」を宣言された演奏を聞かされるとは。
そうして、ピアノの前に置かれたのは、ごく普通の椅子。
そこに座って、歌が始まった。
だが、この演奏会、それだけでは済まなかった。
この方、タイミングが間違っていた聴衆の拍手に対し、厳しい顔で人差し指を唇に当て「シッ」とやったのである。
歌うに当たり、どれだけ精神を集中させているか、私とて分からぬわけではない。
変なところで拍手されたら、非常にやりにくいだろうことも十分に想像できる。
それでも、だよ。あの対応は、あまりにもきつすぎる。
以後、私は全く歌が耳に入らなくなってしまった。
この演奏会より前だったか後だったか。
チェロの演奏会に行ったときのこと。
この方も、超有名なチェリストなのだが、この「的外れの拍手」について、「私は全然気にしない」と言われた。
そうして聴衆が意思表示をしてくれるのが、むしろうれしいと。
いつ拍手するのか、どこで拍手するのかなんて考えていたら、皆さんも、音楽を楽しめない。意思表示は積極的にしてください、と。
それを聞いたら、その人が奏でる音が、より一層美しく、深く響いてきた。
音楽って、音だけじゃなくて、その音を出す人全部ひっくるめて、なんだよね。
いろんな要素が混ざりあっている。
文化功労者となられたことは、おめでとうだけど、私は二度と、この方の演奏会には行かないだろうな、と思う。
もちろん、チェロは絶対行く。
歌声も 曲目すらも 闇の中
鞠子