散歩途中にある餅屋さんに寄ろう、と思った。
このお店、昔っからあるのだが、お客が入っているのを見たことがなく、よく続いているなと不思議に思っていた店なのである。
ところが、ネット上で絶賛している投稿を見つけた。大福とか草餅とかを売っているのだが、そのお味が「全くもって餅屋ならでは」というのである。
この情報にそそられ、思い切って一度、買ってみた。
なあるほど、たしかに。
皮の部分がとにかく「100%餅」。混ぜ物ゼロの「いかにも餅」。
甘味がほとんどなく、非常に素朴な味なのである。その上、中のあんも甘味が押さえてある。
おまけに、安価。
甘いものが好きな人にとっては物足りないかもしれないが、私はとても感動した。
それで、さっそくリピ買いとなったのだが…
餅屋さん目指して歩道を歩いている私を、デイサービスのワゴンが追い越した。
ワゴンは餅屋さんの前で停車。
若い女性スタッフが、助手席に乗っていたおじいさんを抱きかかえるようにして車から降ろしている。
私が餅屋さんに到着するのと、そのおじいさんが餅屋さんに入るのと、同じタイミングになってしまった。
私は、自動ドアがあけっぱになるよう踏み続けて、おじいさんとスタッフに「先にどうぞ」と声をかけた。
かつてこの店で大福をつくっていたのは、このおじいさんかもしれない。
立っているのもやっとでほとんど歩けず、言葉も不自由らしく、おじいさんは私にたどたどしく「いらっしゃいませ」と言った。そして、「客より先に自分が入るわけにはいかない」とばかり、懸命に私を先に行かせようとした。
客の私がこんなことをしたら、かえって焦ってよくなかったかもしれないな。
でも私が先に入ったら、自動ドアはスタッフが踏み続けなければならない、という思いが先にあった。
結局、スタッフとおじいさんが先に中へ入った。
私の母も、こんな状態の期間が長かった。
ファミレスで、耳にじゃらじゃらピアスをつけたいかにもいかにもな若いカップルが、なにげに自動ドアを踏み続けて私たちを先に通してくれたことを思い出した。
珈琲大福と草餅と三色団子を買った。
自動ドアのお礼なのか、奥さんが、「いちご大福の皮だけなんだけど」と小さなお餅をおまけにつけてくれた。
このお餅も、あっさりしていてとてもおいしかった。
大福は 食べられなかった 最後の日
鞠子