運転中、そういえば、と思い出し、1年以上行っていないパン屋さんに行くことにした。
このパン屋さん、2台分しか駐車スペースがない。店自体も、前後に全然信号機がない緩いカーブの先にあり、バックで止めるのは至難の業。
頭から突っ込むしかないので、出るとき相当苦労する。
それよりなにより、午後にはほとんどパンがなく、売り切れと同時に閉店するため、なかなかタイミングが合わなかった。
幸い、車は1台も止まっていなかった。
だが、中であれこれ見ていたら、ワゴン車が1台、入ってきた。
こんな大きいのに止められると、出るとき、めっちゃ出にくい。
なんだか嫌な予感がした。
やっぱり…
おまけにワゴン、車止めまで入れきってない。おしりがかなり、道路に突出している。
完全、頭にきた。
買物を終えて車に乗り込んだが、ワゴンの飛び出したおしりのせいで、近づいてくる車が全く見えない。
そろそろ出ようにも、走ってくる車はかなりスピードを出してくるため、危険極まりない。
あーあ、ワゴン車が出てくれるのを待つしかない···
でも、ワゴン車の主はご夫婦みたいな2人で、パン屋さんの中、食パンをカットしてもらっている。
これは、時間がかかりそうだ。
仕方なく、待った。
そのうち、食パンをぶら下げたおじさんが店から出てきた。奥さんらしき人は、まだ、買い物をしており、ワゴン車が出るまではまだ時間がかかる模様。
だが、おじさんは、私の「窮地」に気がついた。
パンを持ったまま道路の中央まで出て、走ってくる車を止め、私を誘導してくれたのである。
とにかく出にくい道路の形状。
おじさんは、私の車が道にきっちり出るまで、ずっと私を誘導してくれた。
そこまでしてくれるとは……
さっきまで、激おこぷんぷん丸だったのに、逆に恐縮してしまった。
車を駐車場から出し切ったとき、思わず窓を開けて「ありがとうございました」と言ってしまった。
おじさんは食パンを振りながら「気をつけてねえ」と返してきた。
おじさん、ここの食パン、すごく柔らかいので、そんなに振ったら変形しちゃうぞ。
いや、もう既に、あんなに振ったら変形してしまっていたに違いない。
私もゲンキンなもので、一気に気分がよくなった。
パンの香に 幸せかみしめ 独り言
鞠子