2022年のノーベル文学賞をとったアニー・エルノーの『シンプルな情熱』読了。
うーん。
どうするよ、これ。
翻訳されたものは、本来の文とは違うだろうし、国柄、人種、そんなものによってもとらえ方は大きく違うに違いない。
…とは思うが、とにかく、この小説、一言で言えば「シンプルな情熱」。
…これじゃあ全然説明になってないが、とにかく「一人の年下の男に対するシンプルな肉欲」、それ以外の何でもないのである。
その男がどんな人か、自分がどんな人か、素人なら(私なら)絶対くどくどと説明してしまうだろう人物解説がほとんどない。
その男が妻帯者で、違う国の人で、自分には別に暮らしている子どもがいる、ということぐらいしか分からない。
名前も分からない。
何の職業の人かももちろん分からない。
さっき「肉欲」と書いたが、それとて、いわゆるセックス描写はほとんどない。
そして、「情熱」といってもギラギラ・ギトギトしているわけではなく、まるで他人事のように淡々と思いを記す。ただひたすら、淡々と思いを記し続ける。
そうして読み終わったあと、残るのは、
…で、何?
という感じ。
だけど、決してしらけ、呆れた「…で、何?」でも、その後どうなったか知りたくてたまらない「…で、何?」でもなく、こちらも他人事のように淡々と「…で、何?」と思うのである。
それなのに、きっと、いつもまでも、この小説を読んだことが頭に残る。
詳細は一切覚えてなくとも、「…で、何?」と思った記憶はいつまでも残るに違いない。
全くふっしぎな魅力の小説。
ノーベル文学賞というのも、授与する側はある意味勇気ある決断、とまで思ってしまった。
行間も 乾いた風が ふくばかり
鞠子