職場のオトコ後輩が、客様S社長に初めて会う約束をとりつけた、と言って落ち着かない。S社長の会社のHPを見て、その企業規模と沿革に、どうやらビビっているらしい。
いや、S社長は「そんな大きな会社の社長とは思えない」ほど、謙虚でいい感じの人だ。
私自身、職場内での仕事の内容が変わったのでその必要がなくなったのだが、以前は何とかして自分の担当組織に加わってもらいたいと熱視線を送っていた人なのだ。なので、率先して手を挙げ、S社長の会社の製品を取材して文章をつくり、中央組織が発行している全国版の新聞に載せてもらったこともある。
恐れおののいているオトコ後輩に、一情報として、この原稿を見せてあげよう、と思った。
もう、7、8年も前のものなので、探すのに少々苦労したが、あれこれ記憶をたどって原紙を探し当てた。
彼に見せる前に、自分で一読した。
二読した。
三読した。
もう、猛烈にショックだった。
当時、どれだけS社長に対する思いが深かったか、ありありとわかる原稿だったのである。
文章がうまいとか下手とか、そういうことじゃなくって、書いた私自身の「熱」が、文章にあふれんばかりにこもっていた。
完全に、採算度外視な原稿だった。
今の私には、こういうものは、もう、絶対、書けない。
もっと言ったら、ここまで熱っぽく書こうと思える「対象」が見つけられない。客様しかり。仕事しかり。
スタッフ会議とか職場での普段の雑談とか、何かと偉そうなことをいろいろ言っているが、仕事上、私は「終わった人」なのだと思わざるを得なかった。
もし、「そんなこと、ないです」と言ってくれる客様や後輩がいようとも、私は今の自分を許せない。
取材時のことを話すのがどうにもつらくなり、原稿はだまってオトコ後輩の机の上に置いておいた。
読まれなくてもかまわない。その方が、いいかもしれない。
行間の 熱をいまさら 思い知る
鞠子