昨夜、スイミングのジャグジーでひとり、まったりしていたら、某男性が入って来た。
いつも、時候のあいさつだけする間柄で、むしろ妙に気詰まり。今や「黙浴」だから、黙っている方がいいのかもしれないが、ふたりしかいないのにそれもなんとなく変な感じ。かといって、何を話せばいいのかわからない。
仕方がないので「雨、ひどかったですか」と聞いてみた。
「そうですね。強くなってきました」
「これから明日の朝まで、もっとひどいことになるんですよね」
「そうみたいです」
話、続かない。ここでやめておけばよかった。だが、沈黙がつらく「いつ頃から泳いでいるのか」とか「試合に出る時、緊張しないか」とか、スイミングネタをふってしまった。
これが一番無難な話題だ、そう思った。
そう思ったことで、私は急に混乱しだした。
これが一番無難な話題だと思いながらこの人に問うたこと、以前にもあった。
で、そのとき相手は「小学生のときから」「そりゃあ緊張します」と、今日と同じ答えを口にした。
イケナイ……全く同じ質問をしてしまったんだ……
大混乱に陥った私は、大学時代の水泳のテストでブザマだった自分の姿をまくしたててしまった。
いや、ちょっとまて、この話も確か以前この人に……
もうどうしようもなくなって、唐突に「お先に失礼します」とジャグジーを出た。
その後、更衣室のシャワー室で、必死に記憶をたどった。
そんなはずはない。この某男性とふたりきりで会話したことなど一度もないはずだ。だから、いつから泳いでいるか、なんて聞いたはずがない。だが、「小学生のときから」という答えを私は知っていた。「緊張します」の答えも、瞬時に頭に浮かんだ。
おかしい。この人と会話したこと、あったか? どこで? ここでしかない。いや、やっぱり、あり得ない。そんな機会、一度もなかったはずだ……
もしかして、以前に「予知夢」みたいなものを見たのだろうか。
昨夜以来、ずっと思い出そうとしているのだが、真相がわからない。
もし、以前に聞いたことをまた聞いたなら、某男性はこれから私を「おかしな人・危ない人」として避けるだろう。それももはや仕方がない。
奇妙な体験。あるいはこれは何かしらの病気?
この件に関する「自分」が自身、全然理解できない。
考えた 道筋すらも 消えていく
鞠子