この連休、掃除だピアノ練習だといかにも「平和」を装っていたが、実は4月29日連休初日、ちょうど30日に日付が変更になるころ、地域の防犯パトロールカーから、
「ガケ崩れが発生しました。N町のみなさん、避難してください」
なる呼びかけがなされたのである。
仰天して、外に飛び出した。
うちの前、パトカーやら消防の車やら、赤い警告灯をきらめかせた車両が次々と通り過ぎるではないか。そして、ほどなくして山の斜面に大型のサーチライトが向けられた。だが、どこがどう崩れたのか、よくわからない。
どんなに動転したか。
深夜12時なんて、私にとっては毎日起きている時間であり、まだ服を着たままだったが、近所はほぼ真っ暗。電気がついているのは、連休前に越してきたとい面のお宅と東隣の家のみ。でも、誰も家の外に出てこない。
ものものしい雰囲気の周囲。多くの赤い警告灯の方に行ってみようかと思ったが、とにかく近所の人は誰もいない。おまけに、めっちゃ冷え込んでいる。「避難してください」の呼びかけは、聞きとれるような聞きとれないような音声状況で、ある意味、切迫感が感じられない。
服を着たまま起きていた方がいいのか。とりあえず、預金通帳とかまとめた方がいいのか。私はいったい、どうしたらいいのか。
そうして寝たか寝ないかわからない一夜を過ごし、翌朝、現場と思われる方に行ってみた。
近所のNさん、Mさんと出くわした。だがしかし、このおふたりは、全く関係のない話の真っ最中で、昨夜の事件など全然眼中にない模様。話をふったら、Mさん「夜中にすごい音がした」。でもNさん「この辺は岩盤が硬いらしい。だからなかなか掘れなくて困っていると、道路工事の人が言っていた」。そして二人とも「パトロールカーが何を言っているのか、聞きとれなかった」、挙句「聞きとれたとしても、あんな時間に避難はできない」……確かに、二人とも杖が必要で、歩行が大変そうだ。
昼過ぎ、とい面の若夫婦と玄関先で顔を合わせた。
ご主人曰く「昨夜、怖かったですねえ」、そして奥さん曰く「今回は、とりあえずよかったですね」。
……って、高いお金をかけて家を買い、リフォームしたばかりなのに、いいのか、それで。
夕刻、散歩から帰ってきた西隣のご主人など、「まあ、小石が落ちる音がザラザラするわな」
みんな、なぜこんなにプラス思考でいられるのか。
ここに住んで50年超、今まで大丈夫だったからこれからも大丈夫、なんて、正常性バイアスが過ぎるのではないか。
私は、この連休中、心配でならず、毎日現場付近に行っている。
だが、心配したからといって、私だけガケ崩れを逃れるわけではない。
災害が起きたら、お気楽な人も私も一蓮托生だ。
逃れたければ、家を変わるしかない。しかしそれも、おいそれとできることではない。
だったら考えても仕方がないじゃないの …… と思ったりもして、今、とても複雑な心境にある。
形ある ものはどれもが 崩れ落つ
鞠子