惰性でついていただけのテレビから「早期退職」という言葉が聞こえてきた。
大手企業を定年前に退職し、中小企業に再就職したり自分で事業を興したりして人生を謳歌している人が登場していた。
だがしかし、世の中、そんなに甘いはずがない。
同時に、早期退職を迫られて苦境に陥っている人も登場した。
50代の男性社員。ウィッグメーカーに勤務し、一時は直営店の店長なんかも務めていた。ところが業績悪化を理由に、会社は100名ほどの社員に早期退職を勧めはじめた。いろいろとキナ臭いやりとりがあったようだが、結局、この男性社員以外全員、退職を承諾。以来、この社員がどれほど理不尽な扱いをされたか、想像に難くない。会社の仕打ちは悪質で、最後は一方的に解雇を言い渡される。
男性社員曰く「解雇は到底承諾できない。私はここでもっと働きたい」。
こういう話は双方、言い分があるから鵜呑みにはできないが、男性社員の話を聞く限りでは、私もこの会社を許すことはできない。黙って泣き寝入りなど、できるはずがない。何が何でも解雇など認めるもんか。裁判を起こしてやる。訴えて、思い知らせてやる……
だけど、一方で思うのだ。
よしんば訴えて、勝利して、解雇が撤回されたとして、そのあと、この会社で楽しく働けるだろうか、と。
会社側からすれば、「やっかいな人が残ってしまった」。他の社員からすれば、「この人がいると、また余計な問題が起こりそう」。本人自身も「みんなが腫れ物に触るような扱いをする。なんとも居心地が悪い」。そんなふうになりはしないだろうか。
1日のうちほとんどが会社に拘束されるのだ。
思い知らせてやることはできたかもしれないが、そのあとの長い人生、不愉快な気持ちでいなければならないのはあまりにも苦痛ではないか。
そもそもそんな会社、また、同種の問題が起こるに決まっている。どう考えても、将来が明るい会社とは思えない。
いっときの怒りで、人生を棒に振ることになってしまう気もする。
退職するのかしないのか、ご本人が決めるしかないし、どちらを選んだ方が幸せかは誰にもわからない。
選択肢 なければむしろ 迷わない
鞠子