昨日、テレビで『流行感冒』を観た。

やるなぁ、さすがNHK。志賀直哉のこの作品をドラマ化するとは。だけど、あまりにもチャレンジャー。

 

ここで言う「流行感冒」とはスペイン風邪のこと。

主人公(←ほぼほぼ志賀自身)は、長女を突然死のような形で亡くしているため、次女を守るために異常なほど神経をとがらす。妻にも子どもにも2人いる女中たちにも、運動会に行くな、芝居に行くな、出先でしゃべるなetc.しつこくうるさく注意する。ところが、女中の一人・石(いし)が芝居に行ったのではないかという疑いを持ち、これを機に、普段からいま一つ間に合わない石をクビにしようと画策する。

主人公の人間不信はひどくなるばかり。感染を恐れ、戦々恐々。だが、皮肉にも、主人公本人が、真っ先に感染してしまうのだ。そのうち、妻も子も女中も感染。一人残った石は、寝食も忘れ、感染の恐怖もそっちのけで、必死に3人を看病する……

 

まさに今のコロナ禍を見ているようなストーリーなのだが、志賀ファンとしては、「これはやめてほしかった」ことがいくつかあった。

 

その一。主人公を演じたのが本木雅弘だった、ということ。


お顔が整い過ぎている。もっとひょうひょうとした感じ、スキがあるくらいの人の方が、原作にあっている。いっそ小日向文世さんとか。だったらもっと面白かったのに、と思う。

 

その二。石の人となり。


本当のところ、石は芝居に行っていた。でも言えなかった。その罪悪感から必死に看病する、という展開に見て取れたが、原作の石は、そんな感じじゃなかった。罪悪感からとか正義感からとか義務感からとか、そんな「下心」はない。そんなことを考える前に、目の惨状に対して自然とからだが動いてしまう、という感じだった。

 

その三。主人公のセリフ「感染症に、心の中の醜い部分をあぶりだされた」。


一番やめてほしかったのはこのセリフ。ついでにもう一つ言うと、主人公が石に言う「人は自分の気持ちに生きた方がいい」。志賀作品は、こういう核の部分をあえて書かない。志賀本人の考えを押し付けない。読者は自ら考えるように仕向けられる。だから、これらのセリフを言わせたところで志賀作品でなくなってしまった気がして、残念でならなかった。

 

ま、映像化するということは、小日向さんよりモッくんでなければならないのであり、これくらいのセリフもつけ足さなければならないんだろうけど。


『流行感冒』は、原作がお勧め。本当にいろいろと考えさせられる。

笑いながら泣きながら、考えさせられる。

 

 

 

 

 

 

あれこれと文句言いつつ泣き笑い

鞠子

 

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