隣市で『文楽』公演があることを知ったのは1週間ほど前。

文楽かぁ。行きたいな……だがしかし、やっぱり「不要不急」の4文字がチラチラする。さんざ迷った挙句「当日券があるなら行こう」と決めた。


さて、当日が来た。問い合わせた。 当日券、アリ。アリどころか大アリだった。ただでさえ、1席おきの指定席なのだが、それでも5割入っていたかいないか。

ものすごくもったいない。

絶対絶対もったいない。

あまりにももったいなさすぎる……と思うほど、久々の文楽、十分に楽しめた。

…とこうして、八重垣姫が、死んだ婚約者・武田勝頼にそっくりな花造り蓑作を見つめる姿、観ただけで恋心存分、でしょう(実は勝頼本人なんだけど)。

このお家騒動に巻き込まれた悲恋を描く『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう』。勝頼に危機を伝えるべく、凍った諏訪湖を何とかして渡ろうとする姫と、それを助ける白狐たちのシーンが圧巻。前半、いかにも「お嬢様」だった八重垣姫が、諏訪湖を前に、恋に狂った「女」に変わる。

同じ人形なのに……

 

…とあっけにとられているうちに、後半の演目『釣女(つりおんな)』。

これは笑える。

西の宮の恵比寿様に「妻を授けてください」と願をかけた大名とお供の太郎冠者。お告げは「釣り竿で妻を釣れ」だった。そして絶世の美女を釣り上げた大名。続く太郎冠者が釣り上げたのは……

観るべき人が観たら「女を釣る。ましてやルックスで差別するなど」と怒る人がいそうな内容だが、出てくる大名・太郎冠者・絶世の美女・美女でない女が、得も言われぬ滑稽さなのである。

特に太郎冠者と美女でない女。

もはや歩き方まで間が抜けていて、おかしくてならない。その上大名&絶世の美女コンビが、「美しいのにどこか抜けている」感があってなんとも言えない。

 

文楽って、このままいったらどんどんすたれていってしまう。

だけど、太夫も三味線も人形も、信じられないほど高度な技と絶妙なタイミングで舞台は進行する。「ものを言わない」人形が、「限られた不自由な動き」のみで心中を表現するさまは、歌舞伎とはまた違った醍醐味がある。もしこれをロボットが演じたら…八重垣姫の情念も、『釣女』登場人物たちのそこはかとない間抜けぶりも、決して表現できないと思う。

 

不要不急だったかもしれないが、行ってよかったと心底思った。

 
 
 
 
片袖を抑える指が匂いたつ
鞠子
 
 
 

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