テレビをつけたら『水戸黄門』が映った。
東野英治郎バージョン。私としては、歴代黄門さまのなかで、一番なじみ深い。
もう終盤だった。印籠を出す直前の斬り合いシーンに入る冒頭、黄門さまがよく通る声で、
「助さん、格さん、懲らしめてやりなさい」
と言い放った。
懲らしめる。
いいねえ、この言葉。久しぶりに聞いた気がする。
それも「〇〇してあげなさい」という言い方をするとは、なんという皮肉な優しさ。
「懲らしめる」には、そこはかとなく温かい響きがある。悪いことをしたということを自覚させるために、ちょっと痛い目に遭わせなさい、という温情すら感じられる。
決して「断罪しろ」とは言っていない。
『水戸黄門』の場合、敵は弱者をだましたり命を奪ったり、自分一人不正な利益を得たりという極悪非道な代官や役人なわけで、本来は「懲らしめる」程度では済まないのだが、これが「助さん、格さん、斬ってしまいなさい」というセリフだったら、『水戸黄門』はロングセラーにならなかったと思う。老若男女にうけなかったとも思う。
時代劇って、今なら差別用語で叩かれそうな言葉もたくさんあるが、一方で、深い意味を内蔵した言葉、裏を考えさせられる言葉もいっぱい出てくる。
こういう言葉、だんだん使われなくなりつつある。
だって、ストレートな言葉の方が早く正確に伝わるから。
「懲らしめてやりなさい」より「斬ってしまいなさい」の方が、実際を正しく表現している。
でも全く味気ない。