「れっきとした仕事」の一環で、久々に小松左京さんの作品『日本沈没』を手にした。

最初のページに、いきなりこうある。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 梅雨の時は、三月に逆もどりしたかと思われるほど、寒い季候がつづいて、気象庁は冷夏を予報していたのに、梅雨あけ前後から急に猛烈に暑くなりはじめ、このところ連日、三十五度を越す異常な暑さだった。東京、大阪では暑さで病気になるものや、死ぬものさえ出ていた。――それに、例によって、夏の水不足はいっこうに解決されそうにない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

この作品、初版が昭和48年。今から50年も前に、怖いほど今の状況をぴたりと言い当てている。

『日本沈没』は大ブームになった記憶がある。あまりに衝撃的だった。私はこれをいつ読んだのか覚えがないが、例えば「連日三十五度」などという記述に、「ウソくさい。なこと、あるわけない」と思ったに違いない。今でこそ35度と聞いても、「あ、そう」どころか「多少、涼しいかも」と思う自分が怖い。

 

たまたま今日の朝刊に、小松さんの『復活の日』が紹介されていた。「人類を絶滅の危機に追い込んだのは感染症だった」という内容らしい。第2次世界大戦が終わっても、世界は争いのただなか。大国が核兵器や細菌兵器の研究・開発を進めているなかで、MM菌という恐ろしい菌が生み出されてしまう。新種のインフルエンザの流行とも重なって、あっという間にパンデミックに。病院は崩壊、必死に戦う医療関係者たちは敗北、死体があふれ、その結果…「驚愕の結末」なのだそうだ。

 

あり得ないことをもっともらしく書くのがSF小説。だから好きじゃない。だから今でも決して好んで読んだりしない。SF系の映画も、基本、観る気はない。だが、改めて『日本沈没』ページをパラパラめくり、『復活の日』の内容を知って、恐ろしくなった。これからSFがSFでなくなるのではないか、しょせん絵空事なんだから、そんな小説、読みたくない、などとお気楽な文句を言っていられる時間は長くないのではないか、と。

 

怖すぎて『日本沈没』の再読も『復活の日』の初読も、今はする気になれない。