今日の映画鑑賞は『珍品堂主人』。
監督:豊田四郎監督。1960年に制作された、これまた古い映画なんだけど。
で、何と言っても原作が、あの(どの?)井伏鱒二センセイなのである。
そうそう、『山椒魚』の井伏先生。
主人公は、骨董屋・珍品堂。
よく言えば「趣味人」だし、悪く言えば「遊び人」。「高等遊民の亜種」と言ってもいいかもしれない。
骨董への偏愛はいいのだが、「事業欲」も結構ある。高級料亭の経営に手を出し、一時は大成功するのだが…
ちょっと抜けた感がいい感じ。女性関係もいろいろある。だけど、二枚目系じゃないから、笑っていられる。
コメディみたく。
観ていて肩の力が抜ける。
···と油断していると、時々、チクチクと刺されるような気になるシーンが出てくる。だけどそれも、全体を通して軽妙洒脱なので、全然嫌味に感じないのだ。
私のイチオシシーンは、偽の白鳳仏をつかませられるくだり。
もちろん、一見して気に入ったのだが、持ち主である蘭々女史の色香に惑わされたことも大きい。
後々、蘭々女史とは料亭経営上の問題でこじれ、その上白鳳仏もどうやら偽物らしく、最悪の関係になってしまう。珍品堂は怒りにまかせ、白鳳仏を手放してしまうのだが、しばらくして彼は気づく。
「自分がいいと思ったもの、自分が好きなものこそ大切にすべきなのだ」と。
これも全然説教くさくないから、ジーンと胸にくるものがある。
そして、さらにもう1点。
珍品堂の奥様ができすぎ。趣味人・遊び人の夫に対し、懐深すぎ。
ここまで器が大きいと、もう突き抜けちゃってて同性として惚れ惚れする。
珍品堂を演ずるのは森繁久彌。蘭々女史は淡島千景で珍品堂夫人は乙羽信子。
古き良き昭和の時代に、ぐっと哀感を感じさせられた。