本日の映画鑑賞は『麦秋』。
1951年のモノクロ映画。監督は小津安二郎。

超有名な小津監督。
私は小津作品を初めて観たのだが、なるほど、だから評価が高いのか…と納得した。
「間宮家という普通の家庭の日常」を描いただけなのに、観後、なんともいえない優しさ&穏やかさに包まれるのだ。

なぜだろう…

「普通の家庭」と言ったが、戦後の日本、中の上クラスの家庭。
それも、祖父・祖母・息子(←実質、間宮家の家長)・その嫁・その子ども2人、さらには息子の妹(←いわゆる小姑)までいる大家族。この小姑の結婚問題(←小姑は適齢期を過ぎている)を軸に、話が展開していく。
とにかく、今の感覚からするとあまりに大人数。そしてスローでおおらか。そんな時代の違いを差し引いても、やっぱり優しく穏やかな余韻が残る。

その理由1。
すべての登場人物が、無理なく抑制がきいていること。
その理由2。
それでも、時には主張し、時には迷い、時にはきっちり決断すること。
その理由3。
そして誰も、過度な期待や夢をもっていない。どこか「諦観」が漂っていること。
その理由4。
みんなとにかくよく食べる。それも、ご飯をやたらと食べること。
その理由5。
子どもも老人も嫁も、卑屈でないこと。かといって、わざとらしい家族愛を押しつけてこないこと。
その理由6。
実は次男が戦争に行ったまま生死不明なのだが、その悲しみをそれぞれが心のなかにじっと抱えていること。

ありふれた家庭の空間を、見事に描き出している。
観るものに任せ、過度に主張しない。だからしみじみとした気分になる。観ている間も見終わった後も、爽やかさが残る。

ところで、
小姑・紀子を演じるのは、これまた超伝説の女優・原節子。
だけどこの人、目鼻立ちが整いすぎて「普通感」がない。その上、笑顔を作りすぎている。一人、浮いている気がして私はいいと思えなかった。
それより、祖母を演じた東山千栄子さんの笑顔が自然で温かくて、ひたすらピカ一でした。