今朝、私よりあとに出勤してきたオトコ後輩が、顔を見るなり「どこでやったんですか?」とニヤニヤしながら聞いてきた。
やった? 何を? 言っていることの意味がわからん。

「ええっ! 車の左前、ザァーッと擦ってるじゃないですか!」

…どんなに驚いたか、言うまでもない。
車をこすった覚えなど、全くない。

あわてて駐車場に見にいった。
確かに左前、手のひら3つ半くらい、ザッと白くなっている。
幸か不幸か、ティッシュでこすったら、白い部分はほとんど取れた。それでもちょっと深めのキズがいく筋かついている。

信じられない。
当て逃げされた、ということだ。
だがしかし、それほど怒りも動揺もしなかった。

どこでぶつけられたんだろう。
昨日、車を駐車したところを順に思い出した。
あのスーパーの駐車場か、喫茶店の駐車場か、はては職場の駐車場か。
いや、考えてみたら、ぶつけられたのが昨日だったのかどうかもわからない。
だとすると、駐車したところはもっともっと増える。
さらに考えたら、ぶつけられた時や場所が判明したとしても、加害者がわかるわけではない。
だとしたら、詳細が判明したらむしろ、後悔が原因で怒れてくるのではないだろうか。
あのとき、スーパーさえ行かなかったら、とか、別のスーパーに行っていれば、とか。

さらにさらに考えたら、もし、加害者が逃げてなかったらどうか。
「すみませんでした」と言ったらどうするか。
車に執着のない私の感覚だと、塗装や鈑金に出さなければならないほどのキズではない。結局、「これくらいなら直しませんから」と言うに違いない。それ、どんな顔して言えばいいのか。笑いながら言っても怒りながら言っても、不愉快だ。その上、許されてほっとするのは加害者ばかりで、私自身は、決していい気持ちじゃいられない。

逃げたということは、普通なら、加害者は、しばらくの間、びくびくしながら過ごさねばならない。

キズついてしまったものはもうとりかえしがつかないのだし、かえって逃げてくれてよかった。
…そう考える自分が、不思議に思える。
 
 
 
 
 
 
 
あの瞬間思い出すたびぞっとする
鞠子