太宰治の『きりぎりす』に、こんなくだりがあった。

「ワイシャツの袖口が清潔なのに、感心いたしました」

お見合いの席、どう考えても幸せにはしてくれない相手なのに、こうしてますます好きになってしまうのである。

…これで思い出した。

何年か前、仕事である卸問屋の若い後継者に会ったときのこと。
ルックスも雰囲気も、性格的にもまあまあよさそうな子だったのが、「彼女ができない」と言うのである。
本人曰く、「社長になるにも、やっぱり結婚していた方が信頼が増すと思う。誰かいい人がいたら、紹介してください」。

そのとき、他会社の年配経営者A氏も同席していた。
この方が、帰り道、言うには、

「ありゃ、彼女、見つからんよ。見た?袖口。真っ黒だったじゃないか」

…私は全く気づかなかった。
言われてすごく、驚いた。

A氏が、そういう価値観を持っていたこと。
加えて私が、全く鈍感なこと。

普段の言動からしても、キャラ的に見ても、そういうことが「気になるのは私で、気づかぬのがA氏」のはずだった。

太宰もそこに目がいったのか…

意外な人が意外な価値観を持っている。
いゃあ、何て面白い発見(*´∀`)♪





隅々を見ているつもりは自分だけ
鞠子