あの夏目漱石先生が、牛乳を、

「実を云うとこの日は朝から食慾が萌さなかったので、吸飲の中に、動く事の出来ぬほど濁った白い色の漲ぎる様を見せられた時は、すぐと重苦しく舌の先に溜るしつ濃い乳の味を予想して、手に取らない前から既に反感を起した。強いられた時、余は已むなく細長く反り返った硝子の管を傾けて、湯とも水とも捌けない液を、舌の上にすべらせようと試みた。それが流れて咽喉を下る後には、潔よからぬ粘り強い香が妄りに残った。」

と、『思い出す事など』の中に書いていた。

そう!その通り!だから牛乳は嫌いなのだ。
ここを読んで、長年の牛乳に対する恨みが晴れた

そして、

「ときにこんなことはありませんか。本のなかで、かつて漠然と自分が抱いた考えに出会ったり、はるかによみがえりつつある曖昧なイメージかなにかに遭遇したり、この上なく繊細な自分の感情なのに、それがそっくり提示されているようなことが?」

と、後押ししてくれたのは、フローベール『ボヴァリー夫人』(芳川泰久訳)に登場するレオン。
エンマ(←これがボヴァリー夫人)と不倫関係に陥るらしい(←まだそこまで読んでないので)青年だ。

偉大な作家の方々が、時々こうして、私の溜飲を下げてくださる。

ちなみに漱石にとってこの時の牛乳は、重篤な胃潰瘍から己を救う命綱だった。
私とは、次元が違う話ではある。



牛乳がのちの私を左右した     鞠子