午後、職場の駐車場に車を停めたら、すぐあとに駐車場に入ってきた車があった。
客様K氏だった。
「ちょうどいいところで見かけた」、とのことなので、私に用があっていらしったのだ。

いや、私に用…なんて言い方、失礼だ。
柿好きな私にわざわざ柿を持ってきてくださったのである。
それも見たことのないような大きさ&形の柿がダンボールに6つ並べてあった。

「富士柿って言うんだけど。こういうの、食べたことないだろうと思って」

その気持ちはものすごくうれしい。
だがしかし、その柿、見るからに「ぶよぶよ」しているのである。

一瞬、躊躇した。
私は熟柿は苦手なのである。

迷った。
「わぁ、ありがとう」と言ってもらうべきか、はっきり断るべきか。

ぶよぶよしてはいるものの、珍しい柿には違いない。
でも申し訳ないけど、もらっても、私は食べられない。捨てるのは忍びないではないか。

相手がK氏だったことと、今後のことも考え、私はずるい言い方をした。

「こういう柿、初めてみました。でも本当は…柿はかたいのが好きなんです。でも、1個、チャレンジしてみてもいいですか」

…ちょっと気まずい雰囲気が流れた。
まずかったかな、と思った。
結局、1個だけもらった。
K氏はバツが悪そうにダンボールを車に引っ込めた。

で、さよならを言って、私は事務所にあがったのだが、かばんを置くやいなや、K氏から電話がかかってきた。
「ところで干し柿はどうなの。やっぱりかたい方がいい?」

かたくなりすぎてしまった自家製の干し柿があるらしい。
「みかんはどうね」
…干し柿もみかんも、また持ってきてくれるらしい。

「せっかく持ってきてくださったのに、申し訳ないことをしました」
「いや、好き嫌いははっきり言ってくれた方がいいから」

K氏も気まずかったのか、あるいは、人の親切を無視しやがって!みたいな腹立ちだったのか。
速攻の電話&電話の内容からは、K氏の心中、どちらとでもとれた。

好意をどう受け取るのか。
些細なことと言えば些細なことだが、微妙な心のあやがわずらわしい結果を引き起こしたりする。

「富士柿」は、高価な柿だった。
わざわざぶよぶよにしてからゼリー状の実をスプーンで食べるのだそうだ。



正直に好悪を口に貴方ゆえ  鞠子