少し前、スイミングのプールで女の人に声をかけられた。

時々会う人で、穏やかなごく普通の奥さん、といった感じ。時候の挨拶を交わす程度で名前も知らないのだが、「おたくって、Sホールに勤めてみえるの?」と問われたのだ。

Sホールとはコンサートホール。私の所属する合唱団も、毎年ここで演奏会をする。
さらにSホールには隣接しているFという会館があって、ここには貸会議室がいくつもあり、仕事でもよく利用する。
Sホールで練習があったときか、F会館で会議があったとき、私を見かけたに違いない。

…ということを話したら、音楽のことで話が弾みだした。
「そうなの、BACHを歌ってらっしゃるの。私も音楽大好きなの」
「11月末に演奏会があるので、よろしければ来てください。チケット、差し上げます」
「でも残念。その日は予定が入っていて…」
「じゃあ来年、またお誘いしますね」
…なんて。

そんなことがあって後日のスイミング。
今度はサウナの中で、別の女の人から、
「あなたがこの前、プールの中でしゃべっていた人ねえ、社長なのよ、社長」
と聞かされた。

なんでも、ご主人を亡くされ、急きょ社長になり悪戦苦闘。
ここにきてようやく息子に会社を任せられるようになったのだそうだ。
不動産・建築関係の仕事らしい。

へぇ、まさか、あの人が?
とてもそのよな「男っぽい仕事」をしている人にはみえない。

人はほんとに見かけによらぬな。
最近、こういうことがままある。

それこそこちらもスイミングで会う女性。
いかにもガサツな感じ。唇の端にタバコをくわえて車を運転してくる。館内でも、のっしのっしと力士のような歩き方をする。
つい最近、この女性が小学校の先生だということを初めて知った。
さらに、
うちの近所の人だったということも。

絶対わが子を預けたくないタイプだなと思ってみたり、見た目は信じちゃならないと言い聞かせてみたりして。


謎めいた風が見た目を凌駕する  鞠子