坂口安吾は「人間は堕落する」と言ったが、それをもじって雑駁に言うと「人間は滑稽だ」。
これがつくづく身につまされた映画だった。

『さよなら、人類』

ヴェネチア国際映画祭金獅子賞をとっている。

例えば「死」。
旦那さんが心臓発作をおこして倒れたのに、隣の台所で夕食の準備をしている妻は全く気づかない。
今、まさに死にいく人に背中を向け、せっせと調理にいそしむ。

あるいは病室で。
死を目前にしている老婆が、どうしてもバッグを手放さない。
あの世に持っていくと言って抱え込んでいる。
中に入っているのは「金目の全財産」。
頭もとにいる娘や息子が、支離滅裂な理屈を並べて何とかバッグを取り上げようとする。

…これら、「死」という場面においても、おろかで滑稽な言動をする人間という生き物。

この作品、こんな人間の「おかしな面」を、細切れのオムニバスのように断片的に切り取り、張りつけたような不思議な構成。

もちろん、「おかしな面」だけでなく、「この上なく残忍な面」も切り取っている。
それを見る人間たちも、老いたからだを正装で包み、「老醜をさらすみじめさ」も伝わってきた。

あちこちに考えさせられる言葉を散りばめてあり、非常に暗示的かつある意味「難しい作品」だった。