ナミダのクッキング№1507 | 鞠子のブログ『ナミダのクッキング』

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今日、ちょっぴり悲しかったこと…

松原隆一郎さんは東京大学の教授。
専門は社会経済学、相関社会科、なんだそうだ。

その松原先生が、「ジャズドラマー・森山威男さんのドラミングについて研究している」という記事を読んだ。
ん? 経済学者がドラミング研究?
・・・一瞬、趣味の世界か、と思ったけど、実は、「職人の技能移転」を研究中。
現在、「山下洋輔トリオ」の演奏を分析しておられるとのこと。

山下洋輔さん、と言えば、あの、ジャズピアニスト。

実は私、かなり前だが、仕事で一度、お会いしたことがある。
実際に、トリオの合奏も聴いた。
ま、叩くは肘で弾くわ、楽譜には表しきれない旋律&リズムのオンパレードで、まるで格闘技みたいだった。
それでも、心にズシズシ響く超技巧。驚きを通り越して、不思議以外のなんでもなかった。
決まったリズムもなければコードが共有・調整されているようにも思えない。
なのに、なぜ合奏ができるのか。

スタジオ演奏の際、カメラを設置して調査した結果、松原先生曰く「視線と呼吸、短い音の符牒で合わせている」。

・・・すごい(@ ̄□ ̄@;)!!
すごいけど、すごくわかる、これ。

いわゆる「職人技」というのは、言葉にできないものが多々ある。
先輩のそれを見て、聞いて、体験して、失敗を繰り返して、気の長くなるような年月をかけて磨き上げていくものだ。

先生は、記事の中で、この前亡くなった坂東三津五郎さんと中村勘三郎さんの例も挙げておられるが、歌舞伎も本当にそう。

視線、呼吸、ちょっとした手の動き、からだの位置・・・そんな「台本にはここまで書いてないだろう」ことで、ぴったり「合わせる」のである。
それは役者さんだけでなく、裏方さんも囃子方さんも、絶妙のタイミングで合わせることで舞台が進行し、観る私たちを楽しませてくれる。

これら、言葉にできない「暗黙知」という技能、職人技は、人間が本来持っている「鋭敏な能力」があってこそ、だ。
でも残念ながら、そういう能力は便利な世の中になるにつれ欠如しつつあり、もう抜き差しならぬところにきている気がする。

長年かけて磨き上げるなど、効率が悪くてやってらんない。
機械やITでもっと短期間に何とかならないかと、世の中全体が、そんなことばかりに血道をあげている気がする。

プロのミュージシャンとか歌舞伎役者といった「特別な人」じゃなくても、平凡な日常生活の中で「暗黙知」が問われることはいくらでもあるじゃない。
大勢の人の中で生きる、ということは、たえず視線や呼吸を見ている、ということだ。
もちろん、空気を読む、という意味ではない。
相手の真意を慮る、思いやる、思い至る、ということだ。

それでも、経済学の世界にいる先生が、こういう視点から研究を進めている、ということに、なんだかちょっぴり救われた気がするな。