スポーツクラブの更衣室。
スイミング派のタカハシさん(仮名)と、エアロビ派のイチカワさん(仮名)が、着替えながら雑談していた。

話題は「お米」。
何でもタカハシさんは、お米に強いこだわりがあるのだそうだ。

あきたこまち
こしひかり
ミルキークィーン
はつしも
龍の瞳 等々…

いろいろ試した結果、○○産の△△という米がいい、ということになり、以来、そのお米をお取り寄せしているとのこと。

そんな米蘊蓄を語り続けるタカハシさん。
ふんふん頷きながら聞き入るイチカワさん。

ところが、当事者でない私は、これらの会話中、ひやひやものだった。
なぜならイチカワさん、とある「和食の店」のホール責任者、だからだ。

当然、お米にも詳しいはず。
たぶんタカハシさんより…

私はその店を二度ほど仕事で利用し、その後、当時、手を引けば歩けた母を連れて、数回食事に行った。
だからイチカワさんの仕事を知っていたのだ。
でもイチカワさんは、私に気づいているのかどうかわからない。クラブでは一切、仕事の話をされないから。個人情報管理が徹底しており、気づかないふりをしているのかもしれないし、あるいは全く気づいてないのかもしれない。

イチカワさんは、「今日は勉強になりました」と言って帰っていった。

その挨拶を聞きながら、ちょっぴり得意気に「米」を語っていたタカハシさんが、なんだか気の毒になってしまった。