7月、初体験したことがある。
合宿団の練習は2時間半なんだけど、ぶっ通しでBACHのミサ曲ロ短調とモーツァルトのレクイエムを歌わされた時。それはまるで、拷問のようなレッスンだった。先生は「しんどくなったら適当に休んで」と言われたが、そんなこと、できるわけがない。
途中で気が遠くなりそうになった。楽譜がよく見えない。腕がつらくて楽譜を持ってられない。

…ところが脳内モルヒネ全開なのか、歌の悪魔がとりついたのか、最後の方は、からだと心が全く別物になっていた。休憩しようと思うのに、からだが勝手に歌い続ける。すでに楽譜は下に置いているのに…

こんな体験、初めてだった。

ところが今日は、ピアノの悪魔にとりつかれる初体験をした。

月末の合宿に向け、初見の曲だけでも音取りしていきたい。昼間に時間が取れるのは今日ぐらいしかないので、例によってビキニスタイル狂気の姿でピアノに向かった。

この前の日本歌曲レッスンと違い、慣れ親しんだBACHなので、音の進行が何となく予想できるところもある。右手で弾きながら歌っているうちに、あまりの旋律の美しさに泣けてきてしまった。

ヤバイ…

ナミダが止まらない。何で泣けるのよぅ。

これでは音がとれない。しばらくBACHから離れようと、ショパンのワルツを弾いてみた。
私は間違えるのがイヤなので、いつも逃げ腰で、探るような指づかいのいかにも素人な弾き方をするのに、今日はいきなり情熱的に叩いてしまった。BACHの音取りですでに腕が張っており、控えめな弾き方をしようと思うのに、腕が勝手に攻撃的な弾き方をしてしまう。

こんなのワルツじゃない。

続けてノクターン、シューベルトの即興曲を弾いてみたけど、すべて同様。思い描く弾き方ができない。勝手に鍵盤を叩いてしまう。

左手人差し指の爪が折れた。

歌の悪魔とピアノの悪魔。こんな体験初めてだった。