アロー・スタンダップさん?ええ、お待ちしていましたよ。どうですか、お掛けになったら。
私は青年と向かい会って座った。
それで、もしあなたがいいのならその、あなたが、ドル中になった経緯を教えてもらえるかしら…。
ねぇ、前座は抜きにして喋りましょうよ。あなたは僕に話を聞きにきた。しかし僕がドル中になったのを聞きにきた訳でもなければ取材にきた訳でもない。それにあなたは僕に『ピエロ』について聞きにきたのでしょう?
笑える。物事はある正方向で行き過ぎると笑けてしまう。だが青年は更に上をいっていた。
それにあなたは正確には僕に話を聞きにきたのではない。僕と同じ名でこの作品の作者であるアローが作り出した僕に話を聞きにきたのでしょ?更に言えばあなたもアローの作品だ。結局こういう物は作者の心の対話でしかないのだから。あとあなたは酸性か塩基性かでいうと中性だ。
…。君は何でも知っているのね。
あなたも知っているはずですよ。世界は小説であるという事を。そういう意味では僕はピエロだな。さらに全人類もピエロだ。ごく一部の人間と赤ん坊を除いて。
そう、君は知っているんだ。
私は知っている。
じゃあ『ピエロ』について話してもらっていいかしら。
『ピエロ』について話すのは難しい。代わりに僕が彼らの国に行った時の話をしましょう。
朝起きると僕はピエロの国にいた。
………。
えっと、アロー?あなたは何が書きたいの?方向性が私には分からないわ。これじゃあまた読者から「?」の文字が送られてくるわよ。
それでいいんです。僕が言いたい事は次の編で書くので。もしそれを読んでも分からないならそれはひとえに僕の責任でしょう。
あとこの中性というのは?
それはあなたが一番知っているはずですよ。まさかあなたをなめたら酸っぱいとかそういうことをいってるとでも思ったんですか?
なるほど笑える。やはり行き過ぎているのだ。
実際あなたは凄く魅力的です。
大島さんは魅力的な人であった。頬はほんのりと赤みを含み健康的なえくぼを携えた笑みは人を惹き付けないではおかない。胸は調度良い大きさで腰は綺麗なラインを描いておりとても40代とは思えなかった。そして着ていたカッターシャツもとても似合っていた。すべてがただ世界があるようにただ大島さんのパーツはあった。
本当に魅力的かしら。
そう言って大島さんは着ていたカッターシャツを脱ぎ始めた。まずボタンを外していき徐々に肌を露出していった。透き通るような肌は無防備にさらされていき、ついにふっくらと丸みを帯びた乳房が見え始めた。ピンク色だった。次にスラリとした腰周りが見え始めた。シャツを脱ぎ終わるとズボンにてを掛けそして遂には床へと落ち何も着ていない状態となった。無論僕は勃起すると思われた。しかししなかった。あまりにも完璧過ぎたのだ。不思議な事に大島さんの下半身に生えていた物に僕は全くの違和感を持たなかった。それはそこにあるべき物としてそこにあったのである。ただただ美しかった。
ホント、笑っちゃうわ。小さい時は何も思わなかったけれど歳をとるにつれなぜこんな物何故ついているんだろうって。でも更に歳をとるにつれてどうでもよくなったの。それだったらこの体を磨いてやろうってね。そうすれば服さへ着ていれば誰も私が男性だって気付かないでしょ?
僕は気付いてました。でもいいと思いますよ。僕は。魅力的です。
嬉しい事言うじゃない。でも私はホモじゃないわよ。それだったら事はもっとシンプルなの。つまりね、私はやっぱり女の人が好きなの。でも乳首は感じるけどペニスはあまり感じないの。だから性行をする時には愛撫するだけ。おかしな話よね。
でもこの世には共感は出来なくても理解しなければならない事がたくさんある。
そう言う事。
そう言いながら大島さんは服を着ていき元の大島さんに戻った。
この世の中は小説なんだから。いちいち敵対していたらどんな長編小説でも紙が足りないものね。
正確にはかなり良い小説ですけどね(笑)
笑えない。
西北に着いた。約束の時間までは1時間近くあったのでマクドで時間を潰す事にした。正直言って時間がないのに時間を潰すという行為は愚劣で軽率でかつ甚だしい事である事は百も承知である。そう思いつつマクドに入りポテトを頼んだ。程無くすると隣の席に学生達が座って会話を始めた。。彼らがどのような思考をしているのか興味を持ったのでしばらくの間彼らの会話に耳を傾けていたがお世辞にも生産性のある会話と呼ぶにはお粗末な会話だったのでその場を立ち去る事にした。時間は止まってる。
次に行き場を求めて歩いているとファミリーマートを見つけ中に入った。雑誌を一つ二つほどつまみ食いをしてみたがどれも興味を引く物はなく、ここも居場所ではないと感じその場を立ち去った。時間はまだ止まっている。
便意を感じたので近くのデパートの便器を拝借させてもらった。出すべき物を出し修羅場を抜け出すと目の前には本屋が広がっていたのだった。時間が動き出した。
赤川次郎、夏目漱石、村上春樹、芥川、カフカ、ドストエフスキー、トルストイ。次々と私は踊り食いをした。至福の時間であった。そしてヘッセ等にも手を出そうとした私を引き留めたのはとある本である。作家はスタンダップ・アロー。知らない名前だ。私を惹き付けたのはその題名だ。
『道化師』<どうかPieroとお読み下さい>
まるっきりパクりではないか。そう思いつつも手に取って読んでみた。たしか書き出しは次のようであったと思う。
朝起きると僕はピエロの国にいた。
この小説は書き出しまでパクっているようだ。だが私は彼に付き合ってやる事にした。なぜなら彼の思考に興味があったからだ。少なくともこの小説が彼の居場所なのだろう。だから彼が自分の思想を吐露し砂嵐を抜け出すのを私は見届けてやる事にした。人生はあくまで相対的な物だ。私にとって彼の小説を読むという場面があってもいいのではないか?
